企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第88回 

ギュンウシュウ出版2026年夏の新刊②

1.Kelebek Etkisi /バタフライエフェクト

人気ミステリー作家ギュナイ・ガフルによる、ギュンウシュウ出版創立30周年を記念した新シリーズ「ミステリアス・アドベンチャーズ」の第2弾。キャッチコピーは「さあ、奇妙な事件リストを作る準備はいい?」
 
ギュナイ・ガフルが児童向け作品として立ち上げた「カオス・ゲームズ・シリーズ」の第1作で、暗号と手がかりを駆使したゲームの世界を描く。謎解きのストーリーだけではなく、登場人物たちの内面にも焦点をあて、科学、心理学、そして自然界の法則を融合させている。謎に挑む6人組の推理を通して、「カオス理論」(注1)という聞きなれない自然界の法則を身近に引き寄せてくる。
 
小学校中学年以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
2×2=4、子ども=やっかい。ぼくにとっては明白な事実。子どもはやっかいの別名。なぜそう言えるかって? ぼくも子どもだから。
 
3人以上の子どもがいると、カオスが生まれる。子どもたちが集まっているところを想像してみてほしい。みんな勝手に走りまわり、自分の能力を思いっきり発揮している。結果はどうなると思う? そう、カオス! 自然界のカオスは、美しいし、気持ちがいいものだけど、ぼくは子ども、いや、人間が作り出すカオスは好きじゃない。
 
気がついているかもしれないけど、ぼくは「カオス」ということばを連発しているよね。頭の中はずっとそのことでいっぱいなんだ。
 
ぼくは宇宙、自然、そして生命の秘密を解き明かそうとしているんだ。この部屋にとじこめられる前も、ちょうどこのテーマについて調べていたところ。科学者たちは長年の努力と研究を重ねて、このなぞめいた「カオス理論」を生み出したんだ。
 
雑誌や本、インターネットで「カオス」について読めば読むほど、ぼくの好奇心はどんどん高まった。みんなにも話してみたけど、あまり興味を持ってくれなかった。ぼくたちがこの理論のせいでつかまっちゃうと知っていたら、真剣に耳を傾けてくれたと思う。でも、こんなことがおきるなんてだれにも予想できないよね? もしかしたら、またあとでこの理論について話せるかもしれない。ぼくたちになにも悪いことがおきなければ、だけど。
 
きっとみなさんはこう思っているはず。「理論も科学もカオスもいいから、まず自己紹介をして。あなたは一体だれで、どうしてつかまったの?」
 
それはそう。でも残念ながら本名は教えられない。これは危険な話なので、みなさんに迷惑をかけたくないから。ぼくたちの名前と住所は秘密だ。でも心配しないで。名前は言えないけど、ぼくたちのことはすべてお話しします。みなさんは、ぼくたちの身におきたできごとを聞ける幸運なひとです。そのことにどうか感謝して、ぼくたちのことを忘れないでください。たとえこの冒険を生きのびられなかったとしても、ぼくたちの記憶がみなさんに残ることを願っています。
 
さて、自己紹介をしてみなさんの好奇心にこたえます。ぼくのことは「プロフェッサー」と呼んで。みんなそう呼んでいるから。きっとぼくがたくさんの本を読み、科学の知識が豊富だからだと思う。
 
ぼくは11歳。来週が誕生日で、12歳になる。でも、本当に12歳になれるかどうかはわからない。だって、ここから抜けだせるかどうかもわからないんだ。
 
ここはどこか? 暗くてカギのかかった、窓のない、蒸し暑くて気分の悪い部屋。家具もなにもない。古くてチカチカするランプと汚れた洗面台がある。それから、ぼくがいつもポケットに入れているペンとノートもある。
 
この物語を最初から順番に書いておくことにした。書きおわったら、ノートは洗面台の下に置いておく。
 
ぼくたちがこの状況におちいったのは、ぼくにもちょっと責任がある。いや、ぼくが一番の犯人。ぼくはゲームを考案したんだ。仲間に話したら、みんな大興奮だった。ぼくたちはゲーム夢中になり「名もなき幽霊クラブ」を結成した!
 
本当に楽しかった。11年間の人生で最高の時間だった。でも、そこから事態は悪くなっていく。そしてついに、ぼくたちは奇妙で恐ろしい事件にまきこまれて、いま、この牢獄で最期の時を待っている。
 
3人の女子と3人の男子で結成した「名もなき幽霊クラブ」は、いままさに消滅しようとしている。まるで、始まる前に終わってしまう壮大なアドベンチャー映画みたいに。映画の最後には、主人公、つまりぼくたちのかわいそうな魂の名前が流れる。
 
ミス・セイレーン(人魚)、ミス・ポイズン(タフで危険)、ミス・オウル(いつも悲観的)、ミスター・ホットソース(のどが焼けるような激辛ソース)、ミスター・ドラゴン(空を飛びまわるあのドラゴン)、そしてミスター・プロフェッサー(ぼく)。
 
そして最後のひとことは「私たちは決して彼らを忘れない」
 
何週間か前のこと。夏休みが始まったばかりだった。ぼくたちはまだ4人組で、チーム名はなかった。セイレーン、ホットソース、ドラゴン、そしてぼく。セイレーンはホットソースの姉。同じ大規模マンションの子ども。
 
セイレーンは14歳、ホットソースは10歳、ドラゴンは13歳。年齢も学校も性格もちがうけど、ぼくたちはなかがいい。
 
夏休み最初の1週間は、とても楽しくて忙しい毎日だった。ぼくたち4人は自転車に乗って近所の大きな公園へ行った。時間がたつのも、夜になるのも、ぜんぜん気にしなかった。でも、大人はよく言うよね。「楽しいことには必ず終わりがくる」って。
 
同じ大規模マンションに住む6人の子どもたちは、自分たちが遭遇する奇妙なできごとをリストアップし、解決しようと決めた。遊びのつもりが、気がついたときには暗号と手がかりだらけの危険なゲームにまきこまれていた。それぞれ異なる能力を持つ6人は、夜な夜な徘徊する影と「骨の丘」に響く奇妙なこだまについて探りはじめた。ひとつ謎を解くたびに、「カオス」はますます深まっていく。最終的に囚われの身となった6人はなんとか脱出しようと頭をしぼる。

※注1:カオス理論。科学の考え方は、これまで発見された物理法則を用いると自然現象は予測できるというもの。しかし、自然界は非常に複雑な要因で成り立つため、未来を正確に予測できないことがある。この複雑な現象を扱うのがカオス理論。本書のタイトルになっている「バタフライエフェクト」は、カオス理論の予測困難性を表す標語的な表現。
 

作家プロフィール


Günay Gafur
(ギュナイ・ガフル)
1978年アンカラ生まれ。アンカラ大学化学工学科卒業。2011年、最初のミステリー小説『パペッティア』を、続いて『神託』(2015)を発表。トルコミステリー作家協会の創設メンバーであり、同協会の短編集『血濡れ』(2018)に短編「死の宣言」を寄稿した。ミステリーのジャンルで様々なメディアで作品を発表している。詩的な表現が評価された『裁判官』(2019)を経て、2024年に出版された『父』は同年、トルコミステリー作家協会主催のクリスタル・ハンドカフス・ミステリー小説賞を受賞した。
初の児童向け作品『バタフライエフェクト』(2026)は、ギュンウシュウ出版の「ミステリアス・アドベンチャーズ・シリーズ」に属する「カオス・ゲーム」シリーズの第1作である。
アンカラ在住で、娘と息子がひとりずついる。
 
  
執筆者プロフィール


鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。 
 
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)