ギュンウシュウ出版2026年夏の新刊③
1.Bizim Tombiş Evden Hiç Anlamıyor / ぼくらのトムビシュ、いえのじゅうしょがきになる
ベヒチ・アクのフルカラー絵本トムビシュ・シリーズの最新作。トムビシュと好奇心旺盛な友だちのメモが、メモのおじいちゃんの家まで近所の目印になるものを探しながら歩きつつ、小さな冒険をする。キャッチコピーは「ネコには、家を見つけるのに住所なんて必要ない」。
子どもたちにとって家やその近所、地域とは、暮らす人々、匂いや音などを通して意味を持ち、成長するにつれてだんだんと広がっていく世界への入り口である。そのようすを描いた物語。
5歳以上推奨。
ある晴れた春の日、トムビシュが道を歩いていると、メモに出会った。トムビシュはうれしくて「こんにちは」と明るく声をかけた。「どこに行くの?」
「おじいちゃんの家だよ」とメモは答えた。「おじいさんの家?」トムビシュは少し考えた。「うん、おじいちゃんの家」とメモは言った。
「きみがよければ、一緒に行ってもいいかな?」とトムビシュは言った。「もちろん」とメモは答えた。ふたりは並んで歩きはじめた。
「ぼく、おじいさんの住所が気になるんだけど」とトムビシュは言った。
「どういう意味?」
「つまり、町の名前とか、通りの名前、番地のことだよ」
「きみ、ムヒッティンのこと知らないんだね」とメモは笑いながら言った。
「ムヒッティンっていう名前のひとは知らないよ」とトムビシュは言った。
「きみのおじいさんの名前が、ムヒッティンなの?」
「違うよ。ムヒッティンは鳥だよ。というか、コウノトリだよ。毎年この季節に来るんだ。ついていけば道を教えてくれるよ」
「おじいさんの住所はないの? 住んでいる場所を鳥に聞かなくちゃいけないの? それに、このへんに住んでるわけじゃない渡り鳥のコウノトリに聞くなんて!」
「ほら、ムヒッティンだ!」メモはうれしくて鳥の鳴き声をまねした。
本当に、大きなコウノトリがふたりの頭の上を飛んでいた。「ついていこう」
ふたりはムヒッティンについていった。少しすると、コウノトリは古いモスクのミナレットに向かって下っていった。そして、ミナレットのバルコニーにある巣に座りこんだ。
「ほらね。ムヒッティンのおかげでモスクが見つかったよ」とメモは言った。
「おじいさんはここに住んでいるの?」とトムビシュが聞いた。
「もちろん違うよ」とメモは答えた。「その横にある石の階段を上がるんだよ」
トムビシュは、メモのおじいちゃんの家の住所が気になってしかたがない。しかし、メモは家が建つ通りの名前も番地も口にせずに進んでいく。住所なしでおじいちゃんの家を見つける方法があるらしい。
作者は、読者の目線を街の細部に促す。編集部は「子どもたちが自ら目をこらし、周りの世界を観察するきっかけとなる作品。色鮮やかなイラストと創造的な読み方の可能性に満ちており、老若男女問わず楽しめる」と評している。
作家プロフィール
Behiç Ak
(ベヒチ・アク)
サムスン生まれ。イスタンブルで建築を学ぶ。1982年から、ジュムフリエット紙で、カリカチュア(風刺漫画)を手がけている。児童書、カリカチュア、戯曲、芸術監督などを手がける一方で、映画業界でも活躍する。1994年に撮影したドキュメンタリー映画『トルコ映画における検閲の歴史-黒幕』は同年に国内の映画賞を受賞した。
最初の児童向け作品『高血圧のプラタナス』は、野間国際絵本原画展の第5回奨励賞を獲得し、ギュンウシュウ出版によって、新たな装丁となったものが、2014年、中国語にも翻訳された。絵本作品の『ふしぎなくも』『ネコの島』『めがねをかけたドラゴン』『ぞうのジャンボ』などは日本語に翻訳、出版されている。
また、過去の作品を新しい装丁でギュンウシュウ出版より発表した。『ベヒチ・アクの笑い話』というタイトルにまとめられた物語は、子どもだけでなく大人の読者からも支持を受けている。30年来の漫画を集めた『ベヒチ・アクのイラスト集』も人気を博している。『Çの友情に乾杯!』(2013)は、ÇGYD(児童・ヤングアダルト図書協会)によって、同年の最優秀児童書作品に選ばれた。同作に始まる「唯一の子どもたち」シリーズは『理髪店のオウム』(2022)で11冊を数える。
アストリッド・リンドグレーン記念文学賞、国際アンデルセン賞のトルコのオナーに選出されている。
ベヒチ・アクは一般向け小説も手がけており、2024年、ギュンウシュウ出版からは初めてとなる一般向け小説『ぐうたら星』『眠る街』を発表した。
2025年にはこのシリーズに『イスタンブルは君のものになる』が加わった。2026年の最新作は幼年から小学生低学年向けのトムビシュ・シリーズ『ぼくらのトムビシュ、いえのじゅうしょがきになる』。
執筆者プロフィール
鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)