ギュンウシュウ出版2022~2023年冬の新刊と新情報
1.Berberdeki Papağan /『理髪店のオウム』
小学校中学年以上推奨。
保険会社に勤めるサイド氏と妻で教師のフェルフンデ夫人は、イスタンブルに暮らして、毎日いっしょうけんめいに働いていた。イスタンブルは世界でいちばん美しい都市のひとつだけれど、暮らしていくには楽な場所じゃない。渋滞はひどいし物価は高い、どんなに働いてもお金は出ていく一方だ。
そこでふたりは、田舎に引っ越すことにした。静かで、物価と家賃が安くて、気候もよくて、住んでいる人の気がいいところを徹底的に調べて、ドゥルグンという村に決めた。息子のハルクに引っ越しを伝えるのはいちばん最後にした。ハルクは、イスタンブルで学校の友だちとも仲よく楽しくやっていたから。でも、はなしを聞いたハルクは、あっさりうなずいた。
「いいよ。友だちとはインターネットで話せるし」
一家は、ドゥルグン村に越してきた。イスタンブルよりも大きなアパルトマンが借りられた。ハルクは、子ども部屋から広々とした外の景色をながめてみたが、村は名前のとおり(注1)しんと静まり返っている。風すら吹かず、家の前の木々の葉も動かない。新しい学校の友だちもみんな静かだし、先生も静かで内気なひとだった。
退屈そうな村だと思っていたが、その印象はハルクが理髪店のイスに座った瞬間に一変した。理髪師のイスマイルさんは、面白いおはなしの語り手だっただけでなく、店にいる緑色の哲学者みたいなオウムとも話すことができるひとだったのだ。
ハルクは、新しく友だちになったメネヴィシュといっしょに、村の丘のてっぺんに住んでいる役者のトゥルハンさんとオウムの関係の秘密を探ることになる。
注1:ドゥルグンはdurgunと書き、「静止した、ものうげな」などの意。
2.Zeynep Cemali Öykü Yarışması 2023 /ゼイネップ・ジェマリ物語コンクール2023
2023年の開催が決定し、同コンクールの主催でギュンウシュウ出版の編集責任者でもあるミュレン・ベイカンが、ギュンウシュウ出版公式のインスタグラムの動画で作品の応募を呼びかけた。
「さあ、2023年が来ました! わたしたちのトルコ共和国建国100年の年です。児童、生徒のみなさん、教師のみなさん、『喜び』に満ちたお話を募集します。2023年のコンクールでお目にかかりましょう!」
毎年、コンクールではテーマが定められている。2023年のテーマは「喜び」に決定した。また、テーマのもとになったゼイネップ・ジェマリの作品は『はちみつクッキーカフェテリア』から次の一文。
「口論に陽気な笑い声がまじりました」
審査員は次の5人が務める。アスル・デル(作家)、バシャル・バシャルル(作家)、ハイダル・エルギュレン(詩人)、ウルマク・ズィレル(人類学者、作家)、ミュレン・ベイカン(編集者、博士)。また、応募作品の締め切りは、2023年5月23日となっている。
動画はこちらから(ギュンウシュウ出版公式インスタグラム)
Günışığı Kitaplığı(@gunisigi_kitapligi) • Instagram写真と動画
作家プロフィール
Behiç Ak
(ベヒチ・アク)
サムスン生まれ。イスタンブルで建築を学ぶ。1982年から、ジュムフリエット紙で、カリカチュア(風刺漫画)を手がけている。児童書、カリカチュア、戯曲、芸術監督などを手がける一方で、映画業界でも活躍する。
最初の児童向け作品『高血圧のプラタナス』は、野間国際絵本原画展の第5回奨励賞を獲得し、ギュンウシュウ出版によって、新たな装丁となったものが、2014年、中国語にも翻訳された。絵本作品の『ふしぎなくも』『ネコの島』『めがねをかけたドラゴン』『ぞうのジャンボ』などは日本語に翻訳、出版されている。
また、過去の作品を新しい装丁でギュンウシュウ出版より発表した。『ベヒチ・アクの笑い話』というタイトルにまとめられた物語は、子どもだけでなく大人の読者からも支持を受けている。30年来の漫画を集めた『ベヒチ・アクのイラスト集』も人気を博している。 『Çの友情に乾杯!』(2013)は、ÇGYD(児童・ヤングアダルト図書協会)によって、同年の最優秀児童書作品に選ばれた。同作に始まる「唯一の子どもたち」シリーズは『理髪店のオウム』(2022)で11冊を数える。
大の猫好きで知られ、イスタンブルに暮らす。2022年の国際アンデルセン賞のトルコのオナーに選出された。
Zeynep Cemali
(ゼイネップ・ジェマリ)
1950年、イスタンブル生まれ。中学・高校時代から、手工芸品やじゅうたん、キリムの取引をする父とともにアナトリアを巡っていた。父からくり返し聞かされた「生きることは学ぶこと」ということばが、ジェマリの人生の基盤となった。
1991年から「貯金箱」(イシ銀行出版)、「トルコの子」、「小麦」などの雑誌で児童向け作品を発表する。ギュンウシュウ出版では、1999年に『わたし、プラタナス、そしてぽんぽんボレッキ』、翌2000年に『バラ通りのとげ』を発表した。その後、『ローラースケートガール』(2003)、『はちみつクッキーカフェテリア』(2005)などの小説、『ハチャメチャ父さん』(2004)、『ねこはおはなしをわたり歩く』(2007)などの短編集を発表した。
2009年11月、イスタンブルで没した。没後に発見された小説『アンカラのひと』(2010)に、2011年のトゥルカン・サイラン芸術科学賞が贈られた。
執筆者プロフィール
鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)