企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第56回 

ギュンウシュウ出版2022年秋の新刊③

1.Akasyalı Meydanın Çocukları /『アカシヤ広場の子どもたち』

ハティジェ・デミルの最初の児童向け作品。とある村の広場に、1本のアカシヤの木が何年も立ち続けている。暑い夏の日には木陰となり、よい香りを村人たちに届けてきた。そんなアカシヤの木が大風で倒れてしまったことで、騒ぎがまきおこる。アカシヤの木に隠された秘密を解き明かす子どもたちの熱意と優しさ、トルコの村の生活を描く。
 
小学校中学年以上推奨。
 

 
© Günışığı Kitaplığı

 
村の広場にたつアカシヤの木は、村人みんなを見つめつづけてきた。学校が終わり家へ帰った子どもたちが、ヨーグルトを乗せたパンを持って友だちと遊びに集まってくる姿を。木陰に座って悩みごとを話しあう村人たちの姿を。だれとも話さず、ひとりただ静かに座っているムスタファ老人の姿を。そして老人は、広場に植えられたその日からアカシヤの木を知っていた。
 
友だちと、ペリハンおばさんの庭のレモンの収穫を手伝うという約束をして、広場で待ち合わせた。サッカーして遊ぶ男の子たちは「もっとむこうにいろよ!」と言ったけど、わたしは「わたしが、ここにいたいからいるの!」と言い返した。その時、友だちが来たので、ペリハンおばさんの庭に行った。私が木に登ってレモンをもぐ係になった。木の上からはとなりの広場が見える。男の子たちはサッカーを続けていて、エフェも仲間に入った。
 
エフェを見ながらレモンをもいでいたら雨が降りはじめた。ペリハンおばさんが「雨が降ってきたし、木からおりて帰んなさいよ」と言ったので、みんな早足で家に帰った。
 
この嵐で広場のアカシヤの木は倒れてしまう。語り手のアイベルと友だちのエフェは、アカシヤの木に隠されたムスタファの秘密を探ることになる。
 
 

2.Sıkıntıdan Patlayan Kasaba /『たいくつすぎてはじけちゃう村』

セレン・アイドゥンが、夢を持ったり空想をすることの大切さをコメディチックに描いた作品。日常生活をおくるうえで出てくる問題を解決する以外、その他のことにはまったく興味を持たず、単調な毎日をすごすとある村が舞台となっている。
 
「たいくつな村」とは対照的なフルカラーの挿し絵が用いられている。挿し絵は、サディ・ギュラン。
 
小学校中学年以上推奨。
 

 
© Günışığı Kitaplığı


 
岩山の上に建てられた「底なし灯台」で灯台守をしているマダム・オカカ・ラ・ミテルは、畑仕事にいそしんでいた。ひとつひとつていねいに掘り起こしたジャガイモに話しかける。「こんにちは、ここが地上よ」「こんなに明るいけど、あなたたちがいた土の中より、ときにはたいくつかもね」「大きいとか小さいとか気にしないで。フライドポテトにしたりゆでたりして、ちゃんと食べますからね」
 
マダム・オカカ・ラ・ミテルは太ってはいないが大柄な女性だった。瞳は小さな青い宝石のようにきらめいていた。ふだんは、双眼鏡で島々を見張っている。それに色々なことに興味があるひとだった。まず、灯台に来る鳥たち。写真を撮っては話しかけ、一羽ごとに名前をつけた。
 
マダム・オカカ・ラ・ミテルは、ひとと話すより動物たちとふれあっている方がすきだった。「動物はね、返事をすることで、そうじゃなければ返事をしないことで、わたしを疲れさせないのよ」と言った。なぜなら灯台の下の村人たちは、マダムに言わせればこおりついたみたいで、周囲のことに関心を持たないし、周囲の美しさもどうでもいいと思っているからだ。マダムは村を「たいくつ以下」だと考えている。花屋に「匂いのする花としない花があるのは不思議ね」と言えば、「そんなこともあるかもしれない」とだけ返事が返ってくる。「お嬢さんは絵を描くのが好き?」と聞いても、返事はどうでもよさそうな「好きかもしれないし、そうじゃないかもしれない」だけだ。
 
そんなある日、村人たちがたいくつではじけるようになってしまった。最初は、元学校教師のキイ・テ・モオソイ先生。そしてぼうし屋、村の医者と次々にぽーんとはじけて飛ぶようになった。それを見ていた、キイ・テ・モオソイ先生の孫があることを思いついた。
 

作家プロフィール


Hatice Demir
(ハティジェ・デミル)
1985年、アイドゥン生まれ。ムーラ・ストゥク・コチマン大学トルコ語教育学科を卒業。中東工科大学開発基金メルスィン校で、国語教師として勤務する一方で運営にも関わった。2022年現在、同機関のイズミル校に勤務する。
「子ども時代に、ことばの魔法の世界へ足をふみ入れた」と語る作者は、中学と高校を通して、多数の詩や物語作品のコンテストで賞を受賞し、大学では執筆活動に力を注いだ。最初の児童向け作品『アカシヤ広場の子どもたち』(2022)では詩的な表現を用い、ある村の広場の嵐で倒れたアカシヤの木の秘密の物語を描いた。
 
Selen Aydın
(セレン・アイドゥン)
1975年、イスタンブル生まれ。マルマラ大学コミュニケーション学部広告・広報学科を卒業。広告会社でコピーライターとして勤務した。また、企業コミュニケーションの分野でプロジェクトの開発を行った。その後、文学活動のワークショップに参加し、児童向け作品の執筆を始めた。最初の児童向け作品は『くらやみがきらいなロウソク』(2020、ギュンウシュウ出版)。
イスタンブルに暮らす。
 
  
執筆者プロフィール


鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。 
 
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)