ギュンウシュウ出版2022年秋の新刊②
1.Kraliçe’nin Maceraları /『女王さまの冒険』
フュスン・チェティネルが描く、ひとりの女王を主軸とした3編の短編集。ふわふわの赤毛で、そばかすのある小さな女王は、それぞれの物語で、3人の子どもに出会う。よくある「おとぎばなしの女王さま」とはまったく異なる女王は、物語の主役となる子どもたちを通じて、新しい視点から世界を見るよう働きかける。挿し絵はメルヴェ・アトゥルガン。
小学校中学年以上推奨。
オルネキジャンは、勉強もできるし本も大好きな少年。しかし、落ち着きがない。すぐにはね回るし、あれは何、これは何、とずっと質問をしている。お母さんは、骨とう品を集めるのが好きなのだが、オルネキジャンが動き回るせいで、いくつの美術品が壊れたかしれない。
オルネキジャンが7歳になるので、お父さんとお母さんは、食事や美術館などへつれていってもいい年ごろになったと考えた。お母さんは、息子の落ち着きのなさが心配ではあったが、外へつれていくことに賛成した。しかも、選ばれた場所は女王さまのコレクションの展示会だった。話を聞いたオルネキジャンは大喜びで飛び回る。「もし、女王さまのコレクションに何かあったら」とお母さんの不安は増したが、行くことになった。
道中、オルネキジャンはあらゆることを質問しつづけ、周囲の大人たちがもうがまんできなくなったころ、女王さまが暮らす都に到着した。
ほか、なんの変哲もない毛糸の人形にまつわる話、父親に新しい妻を、自分には新しい母を願い、天空にカンテラをふり続ける少女の話が収められている。
2.Şu Benim Mavi Babam /『これが、ぼくの青色の父さん』
1980年代以降のトルコ詩人で最も重要なひとりといわれるハイダル・エルギュレンによる、児童向け作品。架け橋文庫の第27作となる。自身が少年時代を過ごした1960年代の描写をふくめ、父親との思い出、自身の詩の解釈を詩的な表現を多用してつづっている。
小学校高学年以上推奨。
私には、青い父がいた。いや、肌の色や顔色、髪の色が青かったわけではない。うたがいなく色彩というものは、色彩をまとったひとというものは、人生をより彩り豊かにし、そうすることで世界はより暮らしやすい場所になるのだ、ということを忘れてはいけない。恐らく父は、未来の――そう遠くない未来であることを望むのだが――色彩に満ちた世界の先駆者だった。父がまとう色は青だったのだ。
私は子ども時代にそれに気がついたが、友人たちに「僕の父さんは青色なんだよ」と言ったところで、返ってくることばは、こういったものだったろう。
「え? きみのお父さん、青いの?」
「本が好きだもんね、それは、どの本に書いてあったこと?」
「えー、きみのお父さん、ぼくのお父さんの仕事の友だちじゃん! 青くなんかないよ! あれは、はげてるっていうんだよ!」
「きみのお父さん、目だって青くないよね?」
例えば、キョフテ屋のメフメトおじさんは、赤い色をまとっていた。見た目でわかる。あれは赤い男だ。しかし、父は違う、見た目ではわからない青い色をまとっていたのだ。
ハイダル・エルギュレンは、子ども時代を水に例え、水の色を青いと感じると述べている。つまり青色をまとっている父親は、父親自身の子ども時代を忘れていないひとというだけでなく、エルギュレン自身の幸せな子ども時代の象徴でもある。
作家プロフィール
Füsun Çetinel
(フュスン・チェティネル)
イスタンブル生まれ。オーストリア高校を卒業後、ボアズィチ大学英語教育学科を修了する。教師として勤務するかたわら、イギリスで語学学校のスタッフとしても活動。児童・ヤングアダルトを対象とした物語のワークショップを開催する。また、トルコ国外の児童・ヤングアダルトのキャンプなど、社会問題のプロジェクトにも参加している。
イスタンブルのアヤソフィアに隠された秘密を追う『アヤソフィアはうたう』(2015)、ドイツから南エーゲ海へと物語が展開する『秘密の道』(2016)など小学生向けの作品、『壁の前の三週間』(2017)でヤングアダルト作品を手掛ける。その後も、『チコが選んだもの』(2018)、『小さくて汚い緑の虫』(2019)など、小学校高学年以上を対象とした作品を発表。2021年には、ヤングアダルト向け作品『起こらなかったこと』を発表した。
夫とともにイスタンブルに暮らす。
Haydar Ergülen
(ハイダル・エルギュレン)
1956年、エスキシェヒル生まれ。中東工科大学社会学部卒業後、アナドル大学広告学部で修士を修めた。コピーライターとして活動するかたわら、大学で広告やクリエイティブ・ライティング、トルコの詩について教鞭をとった。
最初の詩は、フェルセフェ誌に掲載された。ほか、ソムット、アダム・サナト、オキュズ、ソンバハル、ギョステリ、ヴァルルックなどの雑誌に掲載された。1983年には、友人とウチ・チチェキ誌を創刊、新聞などにも積極的に寄稿した。作品は、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語で出版されている。最初の詩集は、1981年の『答えのない問い』だった。『段ボールトランク』(1999)、『愛の詩アンソロジー』(2011)、『~であった者たち』(2019)、『封筒』(2019)、『こんなに些末なこと』(2019)、『あなたはなおも太陽の匂いがする!』(2022)などの詩集を発表している。
『40の詩とひとつ』で、1996年のベフチェト・ネジャティギル詩賞と、1988年のゴールデン・オレンジ詩賞を受賞した。『苦悩みたいな借り』で、2005年のジェマル・スュレイヤ詩賞を、『猫のための長い抒情詩』で、2008年のメティン・アルトゥオク詩賞を受賞した。また、2022年に、これまでの功績に対しヴェダト・テュルカリ賞が贈られた。多くの評論も手がけており、2022年には『表面的社会的形式』、『裸足で歩いて』を発表した。
子ども向けの作品には『ザクロのアルファベット』(2012)、『ねるときに読む詩』(2018)、『鳥たちの空を前にして』(2022)などがある。ギュンウシュウ出版では、架け橋文庫の『これが、ぼくの青色の父さん』(2022)が初の作品となる。
家族とともにイスタンブルに暮らす。
執筆者プロフィール
鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)