ギュンウシュウ出版2022年秋の新刊①
1.Babaannem, Kurbağalar ve Hayat /『おばあちゃん、カエルたち、そして日々のこと』
アフメト・ビュケが、小学生の「ぼく」とおばあちゃんの日々を描く。成長した「ぼく」が当時の日記をふり返るという形で物語は進む。
登場人物はみな、ひとくせもふたくせもあり、「ぼく」は、ほかでは味わえないような、おもしろく幸福な毎日を送っている。一方で、日々を送ることがいやで面倒くさいとも感じている。子どもならではの、ゆううつな感情と同時に、どんな事件でも思いもよらぬ方法で、もしくは多少強引に解決してしまうおばあちゃんの姿をコメディチックに描いている。
小学校中学年以上推奨。
9歳のころのぼくは、毎日がいやだった。朝起きて顔を洗うのも、朝ごはんのために手を洗うのも。それ以前に枕から顔を上げるのもいやだった。そんなぼくに、祖母はこう言った。「気持ちはわかるわ。どんな悩み事だって目を閉じて開けるほどの時間で解決します、なんてことは言わないわ。でもね、これは知っておいてほしいの。人生っていうのはね、プレゼントなの。最後には、きっと味わうことができるものよ。信じなさい」。そして、一冊の無地のノートをくれた。不思議なことやおもしろいことがあったら書きつけるようにと。
僕はノートを引きだしにしまい、その後一年、ページに一文字も書かなかった。けれどある日、夏の夜、家の近くの小川で鳴くカエルの声を聞きながら、こう書いた。「おばあちゃん、カエルたち、そして日々のこと」。
同じアパルトマンの上の階にズィフニさんが住んでいる。背が高くて、爆発したみたいなかみの毛で、ビン底メガネ。いつもぼーっとしていて、ぼくが知るかぎり、3回は、アパルトマンのドアに頭からつっこんでいる。
その日はついに、おばあちゃんは「絶対にトラックがつっこんだわよ」と階段をかけおりていった。そうしたらズィフニさんが割れたガラスの中にぼんやりつっ立ってるじゃないか。おばあちゃんが「なんでそうぼんやりしてるんだろうねえ」と言ったら、ズィフニさんは「あれのことを考えているからですよ」と上を指さした。おばあちゃんが「天井でも漏るの?」と聞き返すと、ズィフニさんは「宇宙のことをです!」と言った。
おばあちゃんは「あたしたちがこれ以上イライラする前に、このひとの手を引いて部屋に返してきなさい」とぼくに言った。ズィフニさんの部屋に入ったのは初めてだったけど、宇宙に関係することだらけ。しかもロケットまで作っていて、燃料もお風呂場で自分で調合しているんだって。ぼくは、見たことをおばあちゃんには話さなかった。「別に、アパルトマンの外にまで迷惑かけてるんじゃないんだし、いいんじゃないかな」と思ったんだ。でも、それは大きな間違いだった。
各章は短く、コメディチック。「ぼく」は、その中で、その時しか味わえない人生の楽しさを知っていく。
2.Zeynep Cemali Öykü Yarışması 2022 kazananları açıklandı/ゼイネップ・ジェマリ物語コンクール結果
2009年に亡くなった作家のゼイネップ・ジェマリの名を冠した創作作品のコンクールが2022年も開催され、このたび、結果が発表された。今年のテーマは「宇宙」で、6月13日が締め切りとなっていた。
2022年のコンクールは、「文学に新しいストーリーテラーを」をスローガンに開催され、5名の審査員、ブルジュ・アクタシュ(評論家、作家、詩人、編集者)、ムラト・オズヤシャル(作家、教師)、オメル・アチュク(作家)、スィベル・K・テュルケル(作家)、ミュレン・ベイカン(編集者、博士)が、4名の受賞者を選んだ。また、7名が、注目に値する作品を書いたとして選出された。
授賞式は、2022年11月19日(土)の「第12回ゼイネップ・ジェマリ文学記念日」のイベントの一環としてオンラインで開催される。文学記念日のカンファレンスのテーマは「気候危機と出版」に決まった。
以下、受賞者。名前のトルコ語アルファベット順に紹介する。
●受賞者
アリ・ウトゥク・チャクル(6年生・イズミル)『宇宙ネットワーク』
アズラ・ウルクラタ(7年生・ウスパルタ)『宇宙を動かすのはだれ?』
フルヤ・エル(7年生・クルクラーレリ)『精神科』
ドゥル・アイドゥン(8年生・アンカラ)『子どもっぽい憧れ』
●注目に値する作品
アラヌル・ドゥル・アクギュン(7年生・イスタンブル)
アラズ・ヤナルダー(6年生・アンカラ)
べリズ・ムト(7年生・イスタンブル)
デニズ・エフェ・アイドゥン(8年生・アンカラ)
ウルマク・ギョクチェ(6年生・アンカラ)
イレム・ベヤズ(6年生・コジャエリ)
ニリュフェル・オズデミル(6年生・イスタンブル)
注1:トルコの義務教育制度は、7~14歳までの小学校8年間。その後、15~18歳の高校4年間、19歳以降の大学となっている。
作家プロフィール
Ahmet Büke
(アフメト・ビュケ)
1970年、マニサ生まれ。イズミル・ドクズ・エイリュル大学経済・行政学部を卒業。
特に短編で注目され、2008年にオウズ・アタイ文学賞、2011年にサイト・ファーイク文学賞を受賞した。ギュンウシュウ出版では、インターネットのON8ブログで連載を続けてきた。これは、2013年に『深い問題』というタイトルで最初の小説作品となる。同作で2013年のÇocuk ve Gençlik Yayınları Derneği(ÇGYD/児童・ヤングアダルト図書協会)ヤングアダルト作品賞を受賞した。同ブログで続けていた連載「社会的些細なこと辞典」は、『人はこれ良きもの』(2015)、『密かに愛しむ人たちの会』(2016)の2冊にまとめられてON8文庫から発表された。前者は2015年のDünya Kitap誌で推薦図書賞を獲得した。
架け橋文庫『ギョクチェの道』(2018)をきっかけに、ヤングアダルト作品から児童向け作品へ比重を移した。2017年から、少女ゼイノと家族のシリーズを手がける。『わあ! パパが詩を書いた!』『ママと宇宙へ』(ともに2017)、『楽しいまいにち』(2019)、『パスパスはあたまのうえ、カピシュはあしもと』(2020)の4作品が発表されている。
妻、娘とともにイズミルに暮らす。
Zeynep Cemali
(ゼイネップ・ジェマリ)
1950年、イスタンブル生まれ。中学・高校時代から、手工芸品やじゅうたん、キリムの取引をする父とともにアナトリアを巡っていた。父からくり返し聞かされた「生きることは学ぶこと」ということばが、ジェマリの人生の基盤となった。
1991年から「貯金箱」(イシ銀行出版)、「トルコの子」、「小麦」などの雑誌で児童向け作品を発表する。ギュンウシュウ出版では、1999年に『わたし、プラタナス、そしてぽんぽんボレッキ』、翌2000年に『バラ通りのとげ』を発表した。その後、『ローラースケートガール』(2003)、『はちみつクッキーカフェテリア』(2005)などの小説、『ハチャメチャ父さん』(2004)、『ねこはおはなしをわたり歩く』(2007)などの短編集を発表した。
2009年11月、イスタンブルで没した。没後、発見された小説『アンカラのひと』(2010)は、2011年のトゥルカン・サイラン芸術賞を受賞した。
執筆者プロフィール
鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)