企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第53回 

ギュンウシュウ出版2022年春の新刊③

1.Tüylü Bir Uzaylı Macerası /『もふもふ宇宙人の冒険』

サブリ・サフィエの、最初の児童向け作品。消えた宇宙船の船長「フェリス」を探す友達4人組の冒険を描く。動物保護やテクノロジーなどの今日的なテーマを織り交ぜながらも、冒険の息を飲むようなワクワクにあふれた作品に仕上がったと紹介されている。
 
小学校中学年以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
その年、最初の雪が降った。もともと授業に身が入っていなかった子どもたちは、誰かが「雪だ!」とさけんだことで窓に群がってしまい、先生は授業を半ばあきらめた。そのまま、雪はどんどん激しくなり、帰宅のスクールバスが遅れてしまう。ディレッキは、雪の中で大はしゃぎする友だちのメルトとルザを冷静に眺めながら、家に帰ったら犬のラムセスを散歩に連れていこうと考えていた。どんなに喜ぶだろう。
 
メルトの妹ベルナも来て、降りしきる雪の中、4人はじっとスクールバスを待った。他の地区へ行くバスは来るのに、4人の乗るバスは来ない。しかも欠席者が出ていたので、同じバスに乗るのは、今日は4人だけだ。しびれを切らしたメルトが「どうしようか」と言うと、ベルナは「歩いたら2時間はかかるわよ」と、きっぱり言った。
 
そこへミニバスが来たので、4人はスクールバスだと思って乗りこむ。ピンクとピスタチオグリーンで塗られた古い型のバスは、いつものスクールバスではなかった。知らない方へ、どんどん走っていく。バスには奇妙な生き物が乗っていて、手助けを頼んできた。あっけに取られていた4人だが、頼まれるままなぜかネコ探しに巻きこまれる。ネコを探して忍びこんだ怪しげな研究所では、さらに思いもよらぬことが待っていた。
 
 

2.ZEYNEP CEMALİ ÖYKÜ YARIŞMASI/ゼイネップ・ジェマリ物語コンクール

2009年に亡くなった作家のゼイネップ・ジェマリの名を冠した創作作品のコンクール。ギュンウシュウ出版が主催し、2011年から開催されている。当初は1~3位の順位があったが、近年は優秀賞3~4名と、佳作7名前後を選出するかたちになった。受賞者の作品は無料で配布されるブックレットに掲載される。コロナの影響で、2020年、2021年の授賞式はリモート形式で行われた。
 
2022年も開催が決定し、小学校の6~8年生(注1)を対象にオリジナルの創作作品を募集していた。2022年6月13日が締め切りとなっていた。受賞者の発表は秋の「ゼイネップ・ジェマリ文学記念日」の式典で行われる。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
毎年、ゼイネップ・ジェマリの作品から一文を引用し、それによってテーマが設定される。応募者はテーマに沿ったオリジナル作品で応募する。2022年のテーマは「宇宙」。テーマを決めた引用は「大空で飛び交うカモメをずっと眺めていた」。
 
2022年の審査員は5名で、ブルジュ・アクタシュ(評論家、作家、詩人、編集者)、ムラト・オズヤシャル(作家、教師)、オメル・アチュク(作家)、スィベル・K・テュルケル(作家)、ミュレン・ベイカン(編集者、博士)が務める。
 
主催のギュンウシュウ出版は、コンクールの目的を以下のように述べている。
 
「ゼイネップ・ジェマリ物語コンクールは、思春期に足をふみ入れる子どもたちに、自分の気持ち、考え、観察したことを、文章として表現することを奨励しています。豊かで正しいトルコ語の使用方法の確立に貢献することを目的とし、子どもたちの生活を、創造と実践によって豊かにすること、未来の作家を育てることを目指しています」
 

注1:トルコの教育制度は6歳からの幼稚園(義務教育ではない)、7~14歳までの小学校8年間、15~18歳の高校4年間、19歳以降の大学となっている。義務教育は小学校の8年間。
 

作家プロフィール


Sabri Safiye
(サブリ・サフィエ)
1961年、アンカラ生まれ。イスタンブル大学国際関係学科を卒業後、長年、映画業界で助監督、監督、プロデューサーとして活躍する。しばらくのあいだ、アニメーション制作に専念していた。2010年、映画業界を引退後、自身の経験を大学生に伝える活動を行った。その後の10年は料理人をしていた。
 
2009年から、移民問題、特に女性と子どものためのプロジェクトに積極的にかかわってきた。そのフィールドワークで用いるために書いた児童向け作品『月のうさぎ』は、クロード・レオンの絵とともに2021年、トルコ語とアラビア語で出版された。最初の児童向け小説である『もふもふ宇宙人の冒険』(2022)は、消えたネコを追う4人組の物語。イスタンブルに暮らす。
 
 
Zeynep Cemali
(ゼイネップ・ジェマリ)
1950年、イスタンブル生まれ。中学・高校時代から、手工芸品やじゅうたん、キリムの取引をする父とともにアナトリアを巡っていた。父からくり返し聞かされた「生きることは学ぶこと」ということばが、ジェマリの人生の基盤となった。
 
1991年から「貯金箱」(イシ銀行出版)、「トルコの子」、「小麦」などの雑誌で児童向け作品を発表する。ギュンウシュウ出版では、1999年に『わたし、プラタナス、そしてぽんぽんボレッキ』、翌2000年に『バラ通りのとげ』を発表した。その後、『ローラースケートガール』(2003)、『はちみつクッキーカフェテリア』(2005)などの小説、『ハチャメチャ父さん』(2004)、『ねこはおはなしをわたり歩く』(2007)などの短編集を発表した。
 
2009年11月、イスタンブルで没した。没後、発見された小説『アンカラのひと』(2010)は、2011年のトゥルカン・サイラン芸術賞を受賞した。 
 
 
執筆者プロフィール


鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。 
 
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)