ギュンウシュウ出版2022年春の新刊②
1.Bozuk Pusula /『こわれた羅針盤』
アナトリアシリーズを手がけたイスメト・ベルタンが、少年と祖父の謎に満ちたアナトリア冒険旅行を描く。ヒッタイトの都ハットゥシャから、セルジューク朝の要衝ディヴリーイへ、コンマゲネ王国の遺跡がのこるネムルト山から、いまだ全容が明らかでない遺跡ギョベクリ・テペへ。古い羅針盤が導くままにふたりは旅を続けていく。
アナトリアという土地の歴史をこよなく愛するイスメト・ベルタンによる、土地と歴史とひとのつながりをたどる作品。
小学校高中学年以上推奨。
夏休みに入る前(注:トルコの学校は9月始まり)、トゥンチは通信簿をもらった。
「おじいちゃん、通信簿もらったよ。6年生になれるよ」「わたしは60歳になったぞ」「足元に気をつけてね、おじいちゃん」「へ、へ、へ!」「ひ、ひ、ひ!」
トゥンチとおじいちゃんの間で毎年、同じ会話が交わされる。通信簿をもらう日がおじいちゃんの誕生日だからだ。でも今年の誕生日はいつもと違う。ふたりがずっと欲しかったキャンピングカーがやってきたのだ。
夏休みが始まると、トゥルトゥルと名付けた車でふたりは出発した。しかし、持ってきた壊れた羅針盤についた、頭部が壊れた像「ヴァレット王子」の秘密を解き明かすことになり、予定していた行程からどんどんずれて、アナトリアを走り回ることになった。骨董品の羅針盤は、ふたりを遺跡の発掘現場、古代都市遺跡、博物館へと引っぱりまわす。
孫と祖父は、思いもよらぬ道をたどりながら、自分たちがアナトリアの歴史の一部なのだと気がつきはじめる。
2.Arkadaşım İçin /『友のために』
ユヌス・ナーディ文学賞、ドゥイグ・アセナ文学賞を受賞したウルマク・ズィレリが、傷ついた若者ふたりの友情を描く。架け橋文庫。顔も知らない家族を探す少年と、それを応援する少女。まったく異なる世界に生まれたふたりは互いの話を聞き、理解し合う。成長していくことへの恐れや痛み、若さを支える友情とはなにかを語る。
中学生以上推奨。
わたしたち、何も悪いことはしていません。全部話せます。何を聞かれても答えられます。だから、お母さん、どならないでさけばないで、わたしの話をちゃんと聞いて。あの子とどこで知り合ったか? お母さんが「あの子」と呼ぶのは、ユヌスのことでしょう。何度彼の名前を教えたらいいの? お願い、お母さん、私の話を聞き終わる前に、ユヌスに何もしないって約束してください。ユヌスには誰もいないの、警察に連れていかれたら、誰もユヌスのこと、助けられなくなってしまう。
おれたち悪いことも間違ったこともしてないです。ただ、ちゃんと連絡すればよかったなって、それはいけないことでした。あの、ちゃんと話します。エズギのこと怒らないでください。エズギには罪はないんです。おれにだってありません。ふざけてなんかいません。本当に、おれ、自分がブルサの人間なのか知らないんです。母さんと父さんがそこにいた、ってだけで、ふたりのこと見つけたときには、混乱しました……。
顔にあざのある少年ユヌスと、裕福な家庭に育ったエズギはふとしたことで知り合い、仲良くなる。そして、ユヌスを赤ん坊のときに手ばなした家族を協力して探すことになった。イスタンブルからブルサ(注:トルコ北西部マルマラ海地方の県、または県都の名)へと続く探索は思ったよりはるかに困難だった。
エズギとユヌスの語りで物語は展開する。「子ども」から一歩抜け出そうとする年齢のふたりが知った友情の強さは、時に窮地におちいるふたりを導き、新たな答えを教えてくれる。
作家プロフィール
İsmet Bertan
(イスメト・ベルタン)
1959年、トルコのマニサ県アラシェヒルのピヤーデレル村に生まれる。小学校時代、国語と歴史の教科書を読みこみ、将来はどちらかに関わる仕事をしようと決める。ギョクチェアダ・アタテュルク師範高校、エルズルム・アタテュルク大学トルコ語・文学部卒業。国語科教員として勤務。その後、TRT(トルコ・ラジオ・テレビ)イズミル局で教育番組の制作・プロデューサーとして長く活動する。
最初の児童向け作品は、亀の子トスビーの冒険物語、『はやいぞトスビー』(2005)。トルコのÇGYD(児童・ヤングアダルト出版協会)から、同年の最高作品に選出された。その後も、短編集『最高のふたり』(2006)、トルコの昔話を再話した『ぶっとびジェンギャーベル』(2009)、動物が主人公の『ホデュック、ギュデュック、それにブドゥック、走れ走れ!』(2012)を発表している。
代表作となった「アナトリアのとある時代シリーズ」は7冊。古代カッパドキアを舞台にした『ゴラト城の囚人』(2006)、黒海地方を席巻したといわれるアマゾネスを描いた『虎の女王』(2008)、ヒッタイト時代を描く『王の伝令』(2009)、フリギア王国と古代エジプトで物語が展開する『ミダスと魔術師』(2010)、ビザンツ帝国時代、トルコ民族の移住を描く『闘牛士』(2011)、15世紀の地中海を舞台とした『海賊の娘』(2013)、ヴァン湖(トルコ最大の湖)のほとりで戦いを繰り広げるウラルトゥ王国が舞台の『黄金の捕らわれ人』(2014)。
イスメト・ベルタンは児童向け作品だけではなく一般書籍も手掛けている。妻とともにイズミルに暮らす。
Irmak Zileli
(ウルマク・ズィレリ)
1978年、イスタンブル生まれ。社会人類学を学ぶ。テレビ、雑誌の特派員として働いたのち、立ち上げに関わった「ロマン・カフラマンラル」誌の、編集責任者となる。「レムズィ図書新聞」の編集責任者を務め、同時にコラムニストとしても執筆を行う。
2011年、1980年のクーデターを題材にした最初の小説『はじまり』を発表し、同作で翌年2012年のユヌス・ナーディ文学賞を受賞した。母という立場に切り込んだ『目をそらすな』(2014)、『影の中』(2017)などの作品を発表する。『最後のながめ』(2019)ではドゥイグ・アセナ文学賞を受賞した。ギュンウシュウ出版ではON8文庫の『壊れた時計』(2019)が初めての作品。ON8ブログに掲載された作品が元になっている。最新作『友のために』(2022)は架け橋文庫のために書き下ろされた。
複数のネコ、イヌ、そして人間からなる大家族でイスタンブルに暮らす。
執筆者プロフィール
鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)