企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第48回 

ギュンウシュウ出版2021年秋の新刊②

1.Kardeş Mardeş Deme Bana! /『兄弟だとかいわないで!』

「ベルキ・シリーズ」のカーン・エルビンギルによる、初めての児童向け長編作品。人と関わることや、だれかと何かを分けあうことが苦手なひとりっこの少年サリフ・エムレ、事業に失敗した家族、少年を取りまく人びとを、エルビンギルらしい、ユーモアとおかしみ、優しさで描いた。
 
小学校中学年以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
家族がやたらとぼくに、「兄弟がいたらねえ」とか「兄弟が必要だ」とか言いはじめた。ぼくが、だれかと何かを分けあうことをいやがったり、焼きもちを焼いたりすると、それはもっとひどくなる。生まれて10年、ひとりっこで楽しくやってきたんだから、もういまさら兄弟なんかいらないよ。そもそも、この町に引っ越してきたのだって、父さんの兄弟が店のお金をすっかり使っちゃったからだ。引っ越してきて、病院にカルテを移しにいったら、そこの先生が言い出した。「この子は不幸だ。兄弟が必要だ」って。そこから始まったんだ、「兄弟」っていう問題は。
 
ここの人はみんなきらいだし、学校の先生もめんどうくさいことを言うけど、となりのエリフだけは別だ。エリフといると落ち着く。
 
そんなサリフ・エムレだが、家族は、彼に「兄弟」と呼べる存在を与えるため、そして外国語を学習させるため、トルコ語がまだおぼつかない留学生のハンスを家に迎えてしまう。それでも、エリフの存在と、父さんが始めたスープ屋が意外にも軌道に乗り始めたことで、サリフ・エムレの生活は変わり始めた。しかし、ある日、家のドアをノックする招かれざる客が現れる。
 
 

2.Kayıp Defter /『消えたノート』

ミステリーの手法を得意とするギュルセヴィン・クラルによる、推理ものの側面もそなえた作品。
 
とある学校のクラスで、失せものの「犯人捜し」が始まった。学校の採点システムにも関わる事態で、先生も含め、みながパニックになる。そんな中、生徒たちは、偏見、排除、疑惑などを乗りこえ、信頼とはなんたるかを学んでいく。そして、とある古い家の庭の秘密も発見することになる。
 
小学校中学年以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
6-Aのクラスで、数学の「生真面目フィリズ」先生は黒板に台形を描いて、面積をどうやって求めるのか説明を始めた。ジェレンはこの学期、どうしてもいい点数を取らなくてはならない。全科目の平均点で、75点以上を取らなくては、夏休みにおばさんの家に連れていってもらえないことになっている。それなのに、ぜんぜん授業に集中できなくて、フィリズ先生の鋭い言葉に、もっとちゃんと聞いておけばよかった、と思う始末。
 
ところが6-Aで、フィリズ先生の「採点ノート」が消えたことで、クラスは大騒ぎになる。ノートが見つからなければ、全員の点数が付かないことになってしまう。そんなことになったら困る、と考えた子どもたちは、ノートを探しにかかった。しかし、不安でいっぱいのこの捜索は、子どもたちの友情にも大きな影響を及ぼすようになる。
 
捜索が続く中で、町にある古い家の雑草が生い茂った庭に、生真面目フィリズ先生が隠していた、決して忘れられないあることも明らかになりつつあった。
 
 

作家プロフィール


Kaan Elbingil
(カーン・エルビンギル)

1971年、リゼ生まれ。ドクズ・エイリュル大学イズミル音楽学校で声楽を始め、1994年、ビルケント大学音楽学部声楽科を卒業。アンカラとイズミルの県立オペラ・バレエで、コーラスを務める。演劇学も学んでおり、ラジオ番組の脚本なども手掛けた。
現在はイスタンブル県立オペラ・バレエに勤務している。子どものためのミュージカル「探偵犬ジャシュ」はイスタンブル県立劇場で、2016年から上演された。
最初の児童向け作品『べルキは発明家』(2016)の出版をきっかけに、児童書作品、一般小説の執筆を続け、シリーズの二作目としてオペラの世界をテーマにした『ベルキはオペラ歌手』(2017)、三作目として『ベルキとチュプチュプ探偵になる』(2019)を発表した。
家族とともにイスタンブル在住。
 

Gülsevin Kıral
(ギュルセヴィン・クラル)
1959年、エスキシェヒル生まれ。ボアズィチ大学経済学部卒業。2008年、ギュンウシュウ出版から出版された『ノミがとこやでラクダがよびこみ』で、文学賞を受賞する。『郵便受けから魔法』(2006)をはじめとして、ミステリー風の児童作品を手がける。2006年、ÇGYD(児童・ヤングアダルト図書協会)のスルヒ・ドレキ文学賞を受賞。 この時の受賞作品は、のちにギュンウシュウ出版から『秘密の暗号はどの封筒に!』(2007)として発行された。
その後も、イスタンブルの有名建築が次々盗まれる「オメル・ヘップチョゼル探偵事務所」シリーズや、難民の子どもたちに焦点を当てた作品を発表している。 『ノミがとこやでラクダがよびこみ』に続くテケルレメ(早口言葉、決まり文句など)の再話『ネコにニンニク?』(2019)を発表し、テケルレメのシリーズとした。また、トルコの各地方を巡り、その土地の子どもたちと直接触れあう活動を続けている。
家族とともにイスタンブル在住。 
 
 
執筆者プロフィール


鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。 
 
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。
 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)