企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第47回 

ギュンウシュウ出版2021年秋の新刊①

ギュンウシュウ出版が手がけた、2021年の秋の新刊をご紹介します。

トルコはコロナ感染がおさまらず、以前のような冊数の新刊を出すのはなかなか難しいようですが、出版社のみなさんは元気にお仕事をされているそうです。
 
昨年に続き、2021年もイスタンブル・ブックフェアーを含め、各地のブックフェアーは中止となりました。実行委員会は、トルコで感染拡大がおさまっていないこと、来場者の過半数を占める小学生・中学生へのワクチン接種が進んでいないこと、彼らが感染拡大を防ぐために必要な警戒を怠る可能性が高いことなどを理由に中止を発表しました。
 
イスタンブル・ブックフェアーを訪れるのは、まだだいぶ先のことになりそうです。
 
 

1.Burası Bizim Evimizmiş Şimdi! /『ほら、ここがおうち!』

ディレキ・エミルの最初の児童向け作品。絵本。同じアパルトマンに暮らす4人の子どもたちが「ままごと」を楽しむ姿を描く。子どもたちの想像力と創造力がいかんなく発揮される「ままごと」を通じ、友だちと一緒に何かをすること、何かを分けあうこと、助けあうことを考える作品。
 
絵は、フバン・コルマン。
 
4歳以上推奨。


 © Günışığı Kitaplığı


アイチャ、セリン、ギョクチェ、ジャンは、同じアパルトマンに住むご近所同士の仲良し4人組。いつも、アパルトマンの中庭でおままごとをして遊んでいる。
 
ご飯を作るひと、仕事に行くひと、病気の子を看病するひと、スープに入れるカエルをつかまえるひと。まずは、こういった重要な役割を振り分け、だれが何をするか決めなくてはならない。そして、ナジエおばさんのチーボレッキ(※1)は、おままごとで一番おいしい時間だ。おままごとをしながら、病気のおばあちゃんのこと、こっちにおしりを向けたままでいる、子ガエルのことなどを話していると、ギョクチェはいつも、「おままごとの中では、なんだってきるんだ!」という気分になる。
 
すでに大人になった読み手にとっては、ひとつの理想である子ども時代を描いた作品であり、ベランダで、庭で過ごした、そのときの楽しさを思い出させると編集部は評している。
 
 

2.Havada Asılı Kalan Top /『空にうかんだままのボール』

ベヒチ・アクが文章と挿し絵を手がける、表紙が印象的な、唯一の子どもたちシリーズ。「今の都会に生きる子どもたち」に向けて、メッセージを送るシリーズの最新作。
 
「あるできごと」を忘れるように義務付けられた町では、人びとの頭の上にいつも厚い雲がかかっているようだった。それを晴らすのは、子どもたちの好奇心であり創造力であるという、ひとつの町を例として、子ども時代の楽しさを描く。テーマは、子ども時代の遊び、4月23日(※2)の意味、自然災害が社会にもたらす影響、習慣という力、母国語で話すことのできる幸せ、など。
 
小学校中学年以上推奨。
 
 

 © Günışığı Kitaplığı


セルカンは海にもぐるのが大好きだ。車のクラクション、人びとのどなり声、そんな騒音も聞こえないし、パソコンとか学校、映画館もないからひとり静かに揺れていられる。なにより、毎日イライラしている自分自身から逃れられる。
 
海の中がどんなにすばらしいか、友だちのセネムに話しだしたら止まらない。あれもこれもあるけれど、「何よりすごいのはさ、人間がずっとやりたかったことができるんだよ」「なあに?」「空が飛べるんだ。海の底は山や谷に見える。自分が空を飛んでいるみたいなんだ」「すごいね。わたし、鳥になってみたかったの」セネムはそう答えたけれど、止まらないセルカンのおしゃべりを半分聞き流していた。
 
海以外にはまったく興味がないセルカンだったが、新しく赴任してきた町長が気になっていた。町長は、町の人びとがあまりに規律のない生活を送っている、と住民たちを非難していたからだ。町長の言葉に、大人たちは口をつぐむが、子どもたちは、町が今の状態になってしまった原因を突き止めるために動き出す。
 
探っていくと、地震で水に沈んだ公園、「災いの舌」という貼り紙を張られ腹を立てたバルとその家族の歴史が浮かびあがってきた。4月23日、公務員が子どもたちに仕事を任せると、事態は一気に動き出した。あるサッカーの試合に始まるかつての秘密が、町を変えていく。
 

※1:ひき肉、玉ねぎ、香辛料を混ぜ、薄い小麦粉の生地(ユフカ)で包んで、油で揚げたもの。クリミア・タタール人の伝統料理。カザフスタン、ウクライナ、ロシアなどでも見ることができる。
 
※2:4月23日はトルコの祝祭日のひとつ、国民主権と子どもの日。トルコ独立運動中の1920年、アンカラにて初の大国民議会が開催された日であり、これを記念する。のちに、初代共和国大統領ケマル・アタテュルクによって、国の未来を担う子どもの日としても定められた。
 
 

作家プロフィール


Dilek Emir
(ディレキ・エミル)
1974年、イズミル生まれ。イスタンブルのボアズィチ大学経済学部を修了。長らくファンドマネジメントの分野で勤務をしたのち、2012年に設立したノトス出版の統括責任者として務めている。
 最初の作品は、『ひとりの朝食』(2012)。初の児童向け作品は、ギュンウシュウ出版から『ほら、ここがおうち!』(2021)として発行された。おままごとを通して、想像力を育てていく子どもたちの物語。
 イスタンブル在住。
 

Behiç Ak
(ベヒチ・アク)
サムスン生まれ。イスタンブルで建築を学ぶ。1982年から、ジュムフリエット紙で、カリカチュア(風刺漫画)を手がけている。児童書、カリカチュア、戯曲、芸術監督などを手がける一方で、映画業界でも活躍する。
 最初の児童向け作品『高血圧のプラタナス』は、野間国際絵本原画展の第5回奨励賞を獲得し、ギュンウシュウ出版によって、新たな装丁となったものが、2014年、中国語にも翻訳された。絵本作品の『ふしぎなくも』『ネコの島』『めがねをかけたドラゴン』『ぞうのジャンボ』などは日本語に翻訳、出版されている。また、過去の作品を新しい装丁でギュンウシュウ出版より発表した。『ベヒチ・アクの笑い話』というタイトルにまとめられた物語は、子どもだけでなく大人の読者からも支持を受けている。30年来の漫画を集めた『ベヒチ・アクのイラスト集』も人気を博している。
 『Çの友情に乾杯!』(2013)は、ÇGYD(児童・ヤングアダルト図書協会)によって、同年の最優秀児童書作品に選ばれた。同作に始まる「唯一の子どもたち」シリーズは『6時44分の波』(2020)で9冊を数える。
 大の猫好きで知られ、イスタンブルに暮らす。2021年のアストリッド・リンドグレーン記念文学賞のトルコのオナーに選出された。
 
 
 
執筆者プロフィール


鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。 
 
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)