2011年の夏、わたしは、念願かなって「池田正孝先生と行く児童文学の旅」に初めて参加しました。
池田先生は企業論をご専門としている大学教授ですが、児童文学を心から愛し、お仕事のかたわらイギリスを中心に児童文学の舞台となった場所を探索する旅を続けておられます。そして、ご自分で探しあてたさまざまな作品の舞台を写真に撮って膨大なスライドを作成し、全国各地で講演会をなさっています。
先生は、「児童文学作品を読むときには、つい筋書きを追うことに懸命になってしまうが、そのお話のひとつひとつの場面をじっくり思い浮かべながら味わってほしい」とくりかえしおっしゃっています。そのことばどおり、先生の講演会に参加して、改めてその作品の魅力を再発見した方もたくさんいます。
スライドを上映する一方、先生は児童文学の旅も企画し、参加者を既成の旅では絶対にいかれない、エルシー・ピドックが妖精となわとびをしたケーバーン山(『エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする』)とか、『妖精ディックのたたかい』でマーサが閉じ込められた塚など、イギリス人でもまずいかないような場所に案内してくださいます。参加者は「ほんとうにその地があるんだ!」と感激しながら、たとえそこが現実にはなにもない地面であったとしても、思い出のシャッターを切らずにはいられません。
わたしが参加したのは、ニューカッスルから始まって湖水地方、ダービシャー、コッツウォルズ、オックスフォードと南下し、ロンドンから帰国する10日間の旅でした。訪ねた作品の舞台は、ローズマリ・サトクリフ『第九軍団のワシ』、アーサー・ランサム『ツバメ号とアマゾン号』、ビアトリクス・ポター『ピーターラビットのおはなし』、アリソン・アトリー『時の旅人』、ルイス・キャロル『ふしぎの国のアリス』、C・S・ルイス「ナルニア国ものがたり」、ケネス・グレーアム『たのしい川べ』と、どれもわくわくする選り抜きの作品ばかりです。
これから6回にわたって、つたないご案内をいたしますので、おつきあいいただければうれしいです。
■全6回のテーマ
第1回 ワシがつないだ物語──『第九軍団のワシ』
第2回 湖水地方が生んだ宝物──ランサムとポター
第3回 アトリーの家──『時の旅人』
第4回 時代が生んだ作品──『妖精ディックのたたかい』
第5回 二人のルイス──ルイス・キャロルとC・S・ルイス
第6回 今もたのしい『たのしい川べ』──ケネス・グレーアム
●著者紹介
杉山きく子(すぎやま・きくこ)
公共図書館勤務。
わたしは「くりかえし読み」の名人です。子どもはすべて「くりかえし読み」の名人ですが、今もわたしは少しその技を持っています。
子どものころ、夏休みの長い午後、母からお昼寝を申し渡されると、いつも廊下にある本棚の前に立って、その日読む本を選んだものでした。そこには、自分が読んでしまった本と難しくて読めない本が並んでいます。その中から、自分を楽しませてくれて、今の気持ちにかなっていて、しばらく読んでいない本を探すのです。この「しばらく読んでいない」というのが、ミソです。これぞという本を見つけた時の喜び。「あっ、これこれ。あんたこんなところにいたんだ」とすり寄る思い。そういう再会を何度も重ねた本は、今もわたしにとってくりかえし読みたくなる本です。
ほんの一部を紹介すると……『クマのプーさん』『たのしい川べ』「アーサー・ランサム全集」『飛ぶ教室』……。