―ミュゲ・イプリッキチさんが編集長の雑誌「ミクロスコープ」についておうかがいします
M・İ:文学と芸術をテーマにしたオンライン雑誌です。若い世代のひとたち、そして文学を信じているスタッフとともに、月刊誌として発行しています。わたしが編集長を務め、アシスタントはトゥーバ・イチェルとゼイネップ・アスタイです。さらに、強力なチームと編集委員会がサポートしてくれています。ほぼすべての号で、インタビュー、評論、論考、短編、詩を掲載しています。トルコ各地からも記事が送られてきます。動画やポッドキャストの形式の場合もあります。そして、何よりも大切なことは、わたしたちが優秀な編集者をそろえている、ということです。
―創刊のきっかけはなんですか
M・İ:わたしの夢のひとつだったのです。独立したニュースチャンネルの「メディアスコープ」と構造上はリンクしていますが、内容は独立した文芸雑誌を作ることが、です。
―編集会議のようすを教えてください
M・İ:基本的に3人一組でzoom会議を行い、毎号ごとに集中的に会議を設けて、掲載する記事をピックアップしています。
―若いひとたちが関わっているとのこと、彼らはどういった仕事をしているのですか
M・İ:若いひとたちには、わたしと一緒に働いてもらっています。副編集長として、またインターンとして。
―雑誌のスローガン“Bakmak için değil görmek için”(※1)ですが、“bakmak”も“görmek”ともに「見る」という意味ですね
M・İ:“görmek”は、より深いところへ潜ることを要求する「見る」で、“bakmak”はより表面的なものを「見る」という動作です。そういう意味をこめました。
―この雑誌を読むであろうトルコの若い世代に編集長としてかけたいことばはありますか
M・İ:芸術の力とは想像力です。そして、変化は想像力から始まるのです。
―長い質問に答えていただき、ありがとうございました。一層のご活躍をお祈りいたします。
●ミュレン・ベイカンのひとこと(『石炭色の少年』について)
―フバン・コルマンのさし絵は、この作品の世界にぴったりです。最初から、コルマンの名前は浮かんでいましたか
原稿を読むとき、基本的に、どんな本になるだろうかと想像しながら読み、メモを取ります。そして、自分の考えを編集会議でも発表します。この作品に関しても同じ流れをたどりました。
心を揺り動かす物語の内容が、長いこと一緒に仕事をしてきた画家フバン・コルマンの感情表現に非常にぴったりだと気がつきました。一緒に、重要な場面のさし絵の構図を考え、フバン・コルマンの色使いや表現の世界に重ねてみました。こうして、ミュゲが思い描いていたとおりの登場人物が現れたのです。特にサリフは、とても愛される登場人物としてデザインされたと思います。
※1:「見るためではなく、見るために」の意。「見る」動作の本質が“görmek”と“bakmak”では異なる
●著者紹介
(ミュゲ・イプリッキチ)
イスタンブル生まれ。アナドル高校卒業後、イスタンブル大学英語学・英文学学科を修了。イスタンブル大学女性学学科および、オハイオ州立大学で修士課程修了後、教員として勤務する。
当初は短編で知られていた。『タンブリング』(1998)をはじめとして、『コロンブスの女たち』、『明日のうしろ』、『トランジットの乗客』、『はかなきアザレア』、『短気なゴーストバスターズ』、『心から愛する人びと』など。小説には『灰と風』『ジェムレ』(アラビア語に翻訳された)、『カーフ山』(英語に翻訳された)、『美しき若者』、『父のあとから』、『消してしまえ頭から』など。これに加え、『廃墟の街の女たち』、『ピンセットが引き抜くもの』(ウムラン・カルタル共著)、『わたしたちは、あそこで幸せだった』などの論考を発表している。現代という時代、日常の中にある人びと、人間関係、人間関係の一部である女性に関するテーマを好んで取り上げる。
児童・ヤングアダルト向け作品には、『とんだ火曜日』(ドイツ語に翻訳された)、『不思議な大航海』、『目撃者はうそをついた』、『隠れ鬼』、『石炭色の少年』、『アイスクリームはお守り』、『おはようの貯水池』など。
トルコ・ペンクラブ女性作家委員会の委員長を4年務め、長年、研究者及びコラムニストとしても活動した。現在、メディアスコープtvにおいて「オリーブの枝」、「シャボン玉」という番組のプロデューサー兼司会者を務めている。また、子どもたちと共に出版した雑誌「ミクロスコープ」の編集長でもある。
©Müge İplikçi
Müren Beykan
(ミュレン・ベイカン)
1979年、イスタンブル工科大学を卒業。1981年、同大学建築史と修復研究所で修士を、2004年にはイスタンブル大学の文学部考古学部で博士を修める。博士論文は、2013年、イスタンブル・ドイツ考古学学会によって書籍化された。1980年以降は、1996年にイスタンブルで開催されたHABITAT II(国連人間居住会議)のカタログの編集など、重要な編集作業に多く参加する。
1996年、ギュンウシュウ出版創設者のひとりとして名前を連ねる。現代児童向け文学、ヤングアダルト文学の編集、編集責任者、発行者として活動する。ON8文庫創設後は、ギュンウシュウ出版と並行して、こちらの編集責任者も務めている。
(写真は、ミュゲ・イプリッキチのYouTubeチャンネル「オリーブの枝」に出演したときのもの)
●著者紹介
鈴木郁子(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)