2016年のトルコは、国内外ともに大きな事件が相次ぎ、日本でも大きく報道されました。トルコの観光業界は大きな打撃を受けたと聞いています。2017年7月現在、日本の各旅行会社のトルコツアーはほぼ復活し、トルコ政府も産業に力を入れるなど、雰囲気はよくなっています。
ですが、この不安定のあおりを受け、残念ながらトルコのイスタンブルで開催されるはずだった、2018年のIBBY国際大会は、開催場所をギリシャのアテネに移すことになりました。もうすでに、ご存じの方も多いと思います。
このコラムで、セルピルさんをはじめとするトルコのÇGYD(Çocuk ve Gençlik Yayınları Derneği/児童・ヤングアダルト図書協会)の準備のようすを追いかけてきただけに、残念でなりません。
セルピルさんに連絡をしてみました。
──イスタンブル大会は、残念なことになりました
セルピル・ウラル(以下、S・U):ええ、IBBYの理事会は、4月のボローニャでの会議で、イスタンブル大会をアテネ大会に変更することを決めました。
──やはり、トルコの情勢が問題ですか
S・U:そう、理由のひとつが、ここ最近のテロの問題と、トルコとシリアの国境で続いている戦闘です。あのクーデター未遂以降、緊急事態宣言が解かれていないこともありますね。
トルコ情勢が不安定なので、日本をはじめ世界の多くの国の方が、トルコは危険な国だと認識し、来訪に関して敏感になりました。多くの旅行会社が、トルコツアーを取りやめたと聞いています。同様に、イスタンブル大会にご招待した皆さんも、やはり、不安に感じられていたようです。
しかし、この状況でイスタンブル大会が中止となり、アテネ大会に変更されたことは、私たちトルコサイドにとってはよかったと思っています。と言いますのも、このまま開催しても、参加してくださる方は非常に少なかったと思うのです。開催は、非常にリスクを伴うことでした。
──たしかにそうですね。でも、皆さんのご準備されてきたことは、どうなるのですか
S・U:IBBYの主導で、アテネ大会には、私たちが準備してきたことがそのまま反映されます。大会のスローガンもそのまま引き継がれます。講演者も、同じ方が登壇されます。アテネサイドも準備期間が非常に短いですから、こうすることで、作業の効率化が図れます。そして、私たちがここまで準備してきたことも、無駄にはならない、というわけです。
確かに、残念で悲しいことです。でも同時に、一体どうなるかわからない国際大会に悩み続けることからは救われた、と言ってもいいでしょう。
──少し、ほっとしました。今後の動きはどうなるのでしょうか
S・U:これから先、トルコでIBBYの大会が開催できるかどうかは、トルコの情勢はもちろん、全中東の政治的発展にかかっています。安定が実現したら、いちばん近いところですと、トルコは2024年の大会に立候補することができます。IBBYの大会は、2020年はロシアでの開催を予定していますね。
これから先の状況が、誰にとってもよいものであることを祈っています。
──ありがとうございました。トルコのIBBY大会を取材できる日が来ることを、強く願っています。
Serpil URAL(セルピル・ウラル)
1945年、トルコのイズミル生まれ。イスタンブルのウスキュダル・アメリカン高校、アメリカのブラッドフォード・ジュニア・カレッジ、イスタンブルの公立芸術学院(現在のマルマラ大学芸術学部)を修了。広告会社でコピーライター兼グラフィックデザイナーとして活動する。1978年から児童書に携わり、1980年にはミュンヘン国際児童図書館で長期の研修を受ける。1986年、第5回野間国際絵本原画コンクールで佳作を受賞。トルコ国内でも1997年にルファット・ウルガズ笑い話文学賞、トルコ・イシ銀行児童文学大賞を受賞。IBBY会員。
ウィスコンシン州国際アウトリーチコンソーシアムでの児童文学講演会で2003年の講演演者を務めるなど、国際的にも広く活動している。
©Serpil URAL