──では、図書協会の海外プロジェクトについてお願いいたします。
セルピル・ウラル(以下、S・U) 海外、というよりも国際プロジェクト、といったほうがいいでしょうね。2007年3月から2008年9月にかけておこなわれた「お隣と出版プロジェクト(KOMŞUMA KİTAP PROJESİ)」です。トルコと隣国ギリシャのあいだで実現しました。トルコサイドの運営メンバーは、図書協会からアイフェル・ギュンダル・ウナル(児童書作家、翻訳家)、トゥリン・サードゥックオール(児童書作家)、そして私セルピル・ウラル。ギリシャサイドは、やはりIBBYメンバーのリア・H・カラヴィア、M・テスィアルタ、E・カリスカニでした。
──プロジェクトはどのように始動したのですか?
S・U まずは、プロジェクト開始前の時点で、両国の子どもたちが互いの国に対してどのように考えているのかを知ることからスタートしました。国際調査を専門におこなう機関と連携して、トルコとギリシャの子どもたちにアンケートをとることにしました。両国それぞれ3校の小学校で学ぶ、8歳以上の子どもたちが対象です。強いことばでいってしまえば、互いの国に対する「先入観」というものを探ることにしました。
その後、それぞれの国の児童書を翻訳し、子どもたちに紹介して読んでもらいました。ギリシャから届いたのは『またテレビなの、テモス?』(ヴァンゲリス・イリアポウロス)、『いつも』(マリア・パパヤンニ)。トルコから送ったのは『魔法のキス』(ゼイネップ・バッサ)、『なまけもののケローラン』(ギュルチン・アルポゲ)。そして、プロジェクトのために二国の共同制作となった『海は橋になる』(リア・H・カラヴィア、セルピル・ウラル共著)でした(筆者注:作品の題名はトルコ語からの邦訳)。
──読んでもらったその後も大切ですね。
S・U そのとおりです。読んでもらったその後で、それぞれの作品について子どもたちにいろいろ話しあってもらいました。ふたつの国のあいだにはどのようなちがいがるあるのか、また、似ている点があるのかというようなこともです。そして作品をもとにして絵を描いてもらったり、登場人物に手紙を書いたり。
そして、プロジェクトの締めくくりとして、お隣の国の子どもたちに宛てて手紙を書きました。それに、自分たちが書いたおはなしの本、手づくりのしおりなども互いに贈りあいました。
その後、再びアンケートをとりました。このプロジェクトに参加した子どもたちの、お隣の国、また外国に対する意識がどう変わったのかを探るためです。結果、子どもたちの先入観が減少したのがわかりました。
──結果は何らかのかたちで報告されたのでしょうか?
S・U そのとおりです。このプロジェクトに参加してくださった両国の学校の先生方、そしてプロジェクトの責任者の報告レポートをふくめた詳細は、2008年9月8日、デンマークのコペンハーゲンで開催されたIBBY世界大会で、トルコとギリシャの各代表によって共同プロジェクトとして発表されました。そこで、各国間のプロジェクトの見本のひとつとして評価していただきました。
──次の国際的なプロジェクトは何ですか?
S・U これは私たちが企画したというものではないのですが、2018年のIBBY世界大会がイスタンブルで開催されることが決まりました。2016年の大会は8月にニュージーランドのオークランドで開催されます。そこから、2018年のイスタンブル大会開催に向け、私たちのプロジェクトが本格始動することになります。
年内には、図書協会のHPに、IBBY世界大会のページが作成される予定です。まずは、メンバーと共に今年の大会に参加し、いろいろと話しあってきます。ニュージーランドからもどったら、また新たなことをご報告できると思います。どうぞ、待っていてくださいね。
──ありがとうございました。IBBYイスタンブル大会についてのお話をおうかがいするのを楽しみにしています。
Serpil URAL(セルピル・ウラル)
1945年、トルコのイズミル生まれ。イスタンブルのウスキュダル・アメリカン高校、アメリカのブラッドフォード・ジュニア・カレッジ、イスタンブルの公立芸術学院(現在のマルマラ大学芸術学部)を修了。広告会社でコピーライター兼グラフィックデザイナーとして活動する。1978年から児童書に携わり、1980年にはミュンヘン国際児童図書館で長期の研修を受ける。1986年、第5回野間国際絵本原画コンクールで佳作を受賞。トルコ国内でも1997年にルファット・ウルガズ笑い話文学賞、トルコ・イシ銀行児童文学大賞を受賞。IBBY会員。
ウィスコンシン州国際アウトリーチコンソーシアムでの児童文学講演会で2003年の講演演者を務めるなど、国際的にも広く活動している。
©Serpil URAL