──前回のお話どおり、まずトルコ国内での童・ヤングアダルト作品に関するプロジェクトについてお願いします。
セルピル・ウラル(以下、S・U) では、順番にお話ししましょう。
まず、2006年の「スルヒ・ドレキ文学賞」です。2005年に亡くなった作家でシナリオ作家のスルヒ・ドレキ(注1)。彼の思い出と素晴らしい活動を称え、2006年に文学賞を設立しました。この賞の目的は、児童文学に8冊の素晴らしい作品をのこした作家スルヒ・ドレキを称えること、そして子どもたちの感情、言語能力、思考能力となによりも夢をひろげることでした。
賞を獲得したのは、ギュルセヴィン・クラル(Gülsevin Kıral)、作品は『秘密の公式はどの封筒に!(Gizli Formül Hangi Zarfta!)』(ギュンウシュウ出版、2007年)でした。
次が、2007年から2008年にかけて実施した「タンジェント文学賞」(注2)です。子どもたち、若い人たちに、障害をもつ人たちのさまざまな問題に気づいてもらい、認識してもらうことを目的にしました。小学校4、5、6年生に向けて、図書協会のメンバーが物語や詩を書きました。これらの作品をさまざまな雑誌などの媒体に掲載してもらい、かなり幅広い活動が実現できたと思います。
──児童・ヤングアダルト図書協会の賞といえば、「その年の1冊プロジェクト」が有名ですね。
S・U まさしくそうです。このプロジェクトは2013年に始まりました。その年に発売された、児童・ヤングアダルト向けの短編、小説──物語というべきかもしれません──、詩、絵本などから、それぞれのジャンルでもっともすぐれた作品を選ぼうというものです。トルコ全土の出版社と連携をとり、このプロジェクトの趣旨に沿った作品を送ってくれるように依頼します。専門家による選考委員会を開き、応募作品を検討し、大賞作品、作家、挿絵画家を選びます。もちろん授賞式もおこないます。
ここで選ばれた作品は、IBBY(国際児童図書評議会)のオナーリスト(注3)に推薦します。選出されれば、次のIBBYオナーリストで世界へ発信されることになります。
──支援プロジェクトもありますね。
S・U ええ、それが2014年の「ソマへ懸け橋プロジェクト」でした。2014年6月から10月にかけておこなったものです。2014年にソマの炭鉱爆発事故(注4)が起こりました。300人以上の炭鉱労働者のかたが亡くなりました。つまり、そのご家族と子どもたちが残されたわけです。
残された子どもたちのために、読書療法で支援をしようと考えました。児童向け、ヤングアダルト向けの本を集め──「死」を題材に扱った作品も意識的にふくめました──、ソマの社会センターに文庫を設立しました。さらに、その文庫のために、机やイス、本棚も用意しました。夏休みのあいだは、毎週1回は必ず、作家や画家、彫刻家などの芸術家を文庫へ送り、子どもたちと創作活動をおこなうようにもしました。
同じ2014年におこなったのが「母子供教育財団プロジェクト」です。トルコの母子供教育財団(Anne Çocuk Eğitim Vakfı/AÇEV)のために、図書協会の会員が文章と絵を担当した、初等教育以前の子どもたちのための本の版権を以降10年に渡り財団に譲渡しました。プロジェクトは現在も続行しています。
現時点で『がっこうへいくまえに(Okula Başlarken)』『ともだちのユルマズくん(Arkadaşım Yılmaz)』『さかなのバレリーナ(Balerin Balığı)』の3冊が刊行されています。
──次は、海外プロジェクトですが。
S・U こちらは数は少ないのですが、とても重要なプロジェクトです。詳しくお話ししたいので、次回ということにしましょう。
──よろしくお願いします。
注1 Sulhi DÖLEK(スルヒ・ドレキ)。1948~2005年。イスタンブル生まれ。トルコの作家、シナリオ作家。アメリカのミシガン大学を卒業後、一級造船技師としてトルコ海軍に勤務。1969年から執筆活動を開始し、同年『かくして世界は廻る(Dünya Dönmüyor Artık)』でユスフ・ズィヤー・オルタチ文学賞を受賞した。また1970年、『緑の丘(Yeşil Bayır)』で文化省児童文学賞で大賞を受賞。その他『三階の馬(Üçüncü Kattaki At)』『笑いの畑(Kahkaha Tarlası)』などの児童文学作品を発表した。
注2 タンジェント(トルコ語ではTeğet)は、曲線にある一点で接するもしくは交わる直線・接線のこと。ほんの少しでもよいので、障害をもつ人々に目を向けてほしいという子どもたちへの思いがこめられている。
注3 IBBYは、加盟する各国の支部から推薦された、外国の子どもに読んでもらいたい各国の優れた児童書を、隔年でリストアップし、IBBYオナーリストとして発表している。文学作品、イラストレーション作品、翻訳作品の3部門に分かれており、過去3年以内に出版された本が対象となる。
注4 2014年5月13日、トルコ西部のマニサ県ソマの炭鉱で発生した爆発事故。日本でも大きく報道された。発生後3日目の5月16日で、283人の死亡が確認された。その時点でもまだ多くの炭鉱動労者が地下坑内にとじこめられていたが、爆発事故ということもあり煙や炎がおさまらず、捜索救助作業は非常に難航した。17日に捜索活動は終了し、死者は301人となった。この事故は、1992年にトルコ北部のゾングルダク県の炭鉱で起きた、死者263人を出したガス爆発事故をしのぐ、トルコで最悪の炭鉱事故となった。
Serpil URAL(セルピル・ウラル)
1945年、トルコのイズミル生まれ。イスタンブルのウスキュダル・アメリカン高校、アメリカのブラッドフォード・ジュニア・カレッジ、イスタンブルの公立芸術学院(現在のマルマラ大学芸術学部)を修了。広告会社でコピーライター兼グラフィックデザイナーとして活動する。1978年から児童書に携わり、1980年にはミュンヘン国際児童図書館で長期の研修を受ける。1986年、第5回野間国際絵本原画コンクールで佳作を受賞。トルコ国内でも1997年にルファット・ウルガズ笑い話文学賞、トルコ・イシ銀行児童文学大賞を受賞。IBBY会員。
ウィスコンシン州国際アウトリーチコンソーシアムでの児童文学講演会で2003年の講演演者を務めるなど、国際的にも広く活動している。
©Serpil URAL