企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第64回 

ギュンウシュウ出版2023年秋の新刊③

1.Ne Gündü Ama! /『ああなんてすてきな日!』

ギュンウシュウ出版のさまざまな作品にさし絵を提供している、イラストレーターのフバン・コルマンによるフルカラーの絵本。文章もフバン・コルマンが手がけた。
 
トルコ共和国建国100年を記念して制作された。キャッチコピーは「子ども時代のように美しいもの、建国記念日は!」(注1)
 
4~5歳以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
メモ、リラとリラの猫キキはいつも一緒に遊んでいる。今日も今日とて、ふたりと1匹はイスタンブルの海辺に座っている。すると、メモは「たいくつだ」と言いだした。キキもすっかりたいくつしているようす。メモは、「だって、このへんでは、めずらしいこともおもしろいことも何もおこらない」と言う。メモがいるこの街には、大きなサーカスのテントもないし、曲芸師もいない。幽霊の出るお城もないし、海賊もいないし、キング・コングだって現れないのだから。
 
それを聞いてあたりを見回したリラは、そんなことないと答えた。それに、今日は、とてもとても特別な日なのだ。
 
自分の住んでいる場所にたいくつして不満が募っている人びとを、子どもたちを通して描いている。実はその周囲で起きている物事の楽しさや、その場所の美しさ、小さな奇跡を見ることができない人びとに、カラフルなさし絵をとおして、日常はとてもキラキラしているのだ、と伝える作品。
 
注1:トルコ共和国の建国記念日は10月29日。前日の28日の午後から祝日となる。
 
 

2.Hatırlamak İçin Güzel Bir Gün /『すてきな思い出の一日』

力強いストーリーの児童向け作品、ヤングアダルト作品で知られるオメル・アチュクが初めて手がけた低学年向けの作品。「楽しい思い出も、悲しい思い出も、思い出せること、忘れないことが大切である」をテーマに描く。
 
フルカラーのさし絵は、エイレム・コチイィト
 
小学校低学年以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
ギュネシは好奇心いっぱいの子猫のような女の子。目はキラキラ、鼻はぴくぴく、耳はどんな音だって聞き逃さない。好きなことは、公園で遊ぶことと、おはなしを聞くこと。
 
でも、公園となると、お父さんとは話が合わない。
 
お父さんは「ブランコのくさりはギイギイいうし、すべり台も汚れ放題、砂場には犬のふんがあるし、ほかの遊具だって今にも壊れそうだ」と文句を言う。それを聞くとギュネシはいつも「そんなこと、なんでもないもん! それだっていいの! それでいいの!」と答える。するとお父さんはいつも、ギュネシはヤギみたいに頑固だと言うのだ。ふたりのやり取りを聞いたお母さんは、お父さんに向かって「あなただって、これくらいの年のころはそうだったでしょ」と笑う。
 
大好きな公園に行ける日、ギュネシは朝ごはんのあと、家を飛び出していく。
 
ある日、ギュネシはおじいちゃんと公園へ行った。家へ帰る時間になっても、まだ公園にいたいとだだをこねるギュネシのために、おじいちゃんが昔のはなしをしてくれた。それは、おじいちゃんが「公園から家に帰ることができなかった」大変なある夜のはなしだった。そのはなしに心を動かされたギュネシは、お父さんの手を借りて、おじいちゃんの過ごした夜のことを詳しく知ろうとする。
 
その結果、色々考えたギュネシがたどり着いたのは、近所の人や友だちと一緒に公園でキャンプをして、焚火を囲んで一夜を過ごすことだった。
 

作家プロフィール


Huban Korman
(フバン・コルマン) 
イスタンブル生まれ。1983年、イスタンブル国立美術アカデミー(現ミマル・シナン美術大学)のグラフィック学科を卒業。以降30年、広告代理店でアートディレクターとして勤務した。そのかたわら、多くの児童向け作品や雑誌にさし絵やイラストを提供した。
2008年、イラスト部門でIBBYのトルコ・オナーリストに選出された。また、2021年にはアストリッド・リンドグレーン記念文学賞の候補ともなった。トルコ国内では2010年にÇocuk ve Gençlik Yayınları Derneği(ÇGYD/児童・ヤングアダルト図書協会)のデザイン賞を受賞している。
ギュンウシュウ出版では多くの作品にさし絵を提供してきたが、近年は自ら執筆することにも力を入れている。第一作として、トルコ共和国建国100年を記念して「ああなんてすてきな日!」(2023)を発表した。
イスタンブルに暮らす。 
 
 
Ömer Açık
(オメル・アチュク)
1980年アダナ生まれ。ハジェッテペ大学初等教育学科を卒業。アダナ、マルディン、イスタンブルで教員として勤務する。「子どもたちといっしょに子どもになること」と、旅を好む。最初の児童向け作品は『三色スミレの咲く駅』(2015)、次いで同年『すてきなぼくの父さん』を発表する。『ジャケットなし組』(2017)、『たしかな人』(2018)も人気作品。作家自身の旅好きを反映させ、『夏の旅人とハプシュおばさん』(2020)も発表した。
最新作は『すてきな思い出の一日』(2023)。
妻、娘とともにイズミルに暮らす。
 
 
  
執筆者プロフィール


鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。 
 
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)