1.Sarımsaklanır mı Kedi?/『ネコにニンニク?』
トルコ語に「tekerleme(テケルレメ)」という言葉がある。早口言葉、または伝統的な物語や民話の初めにつく決まり文句のことだ。本作は、ギュルセヴィン・クラルが、よく知られたテケルレメを集めて再話を行ったシリーズの二冊目にあたる。一冊目はBerber Pire Tellal Deve(ノミがとこやでラクダがよびこみ)(2008)で、この年のÇGYD(児童・ヤングアダルト図書協会)のデザインと編集賞を受賞した。
小学校中学年以上推奨。挿絵はサディ・ギュラン。
本のタイトルにも使われている「sarımsak(サルムサック)」はニンニクのこと。よく知られている早口言葉には、「Şu yoğurdu sarımsaklasak da mı saklasak? Sarımsaklamasak da mı saklasak?」(そのヨーグルト、ニンニク入れて寝かせておく? ニンニク入れないで寝かせておく?)というものがある。トルコではヨーグルトにすりおろしたニンニクを入れることも多く、マントゥ(小さな水餃子のようなもの)にかけて食べる。
ギュルセヴィン・クラルは12のテケルレメを選び、詩の形で物語を書き加えた。一話目の「おはなしのたのしいところ」では、眠る前に「お母さんおはなしして」という少年と母のやり取りが描かれる。
本文は詩の形式なので、頭韻、脚韻を踏み、リズムも心地よい。声に出して読む、読んでもらう、友だちと読みあいっこをする、読んでもらう音を聞いて、覚えて、また声に出して言ってみる。声に出してくり返しているうちに、もっと調子の合う言い回しが見つかるかもしれない。そうやってトルコ語を楽しむ作品である。
物語に入りこんで夢中になって読むのとはまたべつの、言葉の楽しさというものを子どもたちに感じてもらいたいと編集部は言う。
上に出てきた「berber」は床屋のこと。よく知られている床屋の早口言葉には下記のようなものがある。ローマ字風に読めば、だいたい合っているので挑戦してみてほしい。
「Bir berber bir berbere bre berber beri gel diye bar bar bağırmış.」
2.Yaz Sevenler Kış Sevenler /『夏がすき 冬がすき』
短編の名手として一般小説でもファンを多く持つネジャティ・トスネルの短編集。九編をおさめる。少年の目を通して、季節ごとに変わっていく、周囲の風景、友人たち、家族への思いを描く。小学校中学年以上推奨。
ムラトはその日あったことをおじいちゃんに話すのが大好きだ。話し終わるとおじいちゃんは、いつもこう言ってくれる。
「ムラト、とてもじょうずに話してくれたなあ!」
そして笑う。おじいちゃんが笑うと、おじいちゃんのひげも笑ったように見える。それを見ると、ムラトは、おじいちゃんが大好きだなあと思う。
夏休みのある日、ムラトは公園に行くことにした。家のすぐ近くにあるバルシュ公園だ。夏休みはいいなあ、とムラトは思う。友だちともたくさん遊べるし。出かけようとすると、お母さんに呼び止められた。「ちょうど細かいのがあるから」と言っておこずかいをくれた。家にはふたりしかいなかったのだけれど、まるで違う誰かがいるみたいに、お母さんは手のひらの上のお金をぜったいに見えないようにして、ムラトにくれた。ムラトもそれにこたえて、すばやく受け取ると電光石火でズボンのポケットに入れた。
アイスクリーム屋のガラスのカウンターにおこずかいを置いて、アイスクリームを待つ。コーンの上に、アイスがひと玉、ふた玉……どんどん積まれていくけれど、それが全部ムラトの手にわたるわけじゃない。アイスクリーム屋は、山盛りのコーンを差し上げて「アーイスクリーム!」と宣伝するだけなのだ。
季節ごとにムラトの周囲で流れていく毎日の風景、友だちのジェレンとのやり取りが描かれる。
ネジャティ・トスネルの文章は、簡潔ではあるが非常に豊かである。難しい言い回しや、長々しい文章は使わないが、ことさらに簡単な「子ども向けの書き方」を選択することもない。質の高いトルコ語で、読み進めていくうちに、いつの間にか読めてしまう。ネジャティ・トスネルの魅力はそういった点にもあると、編集部は評価している。
執筆者プロフィール
Gülsevin Kıral
(ギュルセヴィン・クラル)
1959年、エスキシェヒル生まれ。ボアズィチ大学経済学部卒業。2008年、ギュンウシュウ出版から出版された『Berber Pire Tellal Deve(ノミがとこやでラクダがよびこみ)』で、文学賞を受賞する。『郵便受けから魔法』(2006)をはじめとして、ミステリー風の児童作品を手がける。2006年、ÇGYD(児童・ヤングアダルト図書協会)のスルヒ・ドレキ文学賞を受賞。
その後も、イスタンブルの有名建築が次々盗まれる「オメル・ヘップチョゼル探偵事務所」シリーズや、難民の子どもたちに焦点を当てた作品を発表している。
家族とともにイスタンブル在住。
Necati Tosuner
(ネジャティ・トスネル)
1944年、アンカラ生まれ。短いドイツ生活の後、トルコに帰国すると、デリンリッキ出版を創立した。1971年、『二日間』という短編でTRT(トルコテレビ・ラジオ)優秀短編賞を、1997年には『贈りもの』で、ハルドゥン・タネル文学賞を、1999年に『日の行くとき』でサイト・ファーイク短編賞を受賞する。その一方で1983年以降、広告代理店でコピーライターとして活動した。
その後、2006年にオメル・アスム・アクソイ論評賞、2008年にアッティラ・イルハン文学賞、2014年にエブベキル・ハズム・テペイラン文学賞を受賞している。
児童書を手がけたのは、1977年の『ケレシ・オスマンの冒険』が最初で、のちにギュンウシュウ出版から『ケレシ・オスマン』として発表された。ギュンウシュウ出版で、子どもたちの日常に目を向けた作品を発表し続けており、現代の短編の名手のひとりとして評価されている。
Hande DEMİRTAŞ
(ハンデ・デミルタシュ)
1970年、イスタンブル生まれ。大学で、美術品の修復を学ぶ。1995年、ギュンウシュウ出版の創設に関わって以来、同出版社に勤務。さまざまな部署を経て、現在はギュンウシュウ出版の著作全般に責任をもつ副社長として業務にあたっている。会社経営にも携わりつつ、出版される全著作物に目を通し、最終的なチェックを行う役割も担っている。