企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第6回


2014年11月8日~16日、イスタンブルのヨーロッパサイドで、イスタンブル・ブックフェアが開催された。
今年も、ギュンウシュウ出版社のブースを訪ねた。その日が日曜日ということもあり、ギュンウシュウのブースはあふれんばかりになっていた。そして毎度のことながら、ハンデ・デミルタシュさんは大忙しだったが、新文庫の立ち上げもふくめていろいろとお話をしていただいた。
ギュンウシュウの2014年の新刊と新文庫について、2回に分けて報告したい。1回目は、2014年の新刊を紹介する。

1  Altın Köle /『黄金の囚われ人』
İsmet BERTAN(イスメット・ベルタン)のアナトリア歴史シリーズの新作。中学生以上推奨。


©Günışığı Kitaplığı

今作の舞台は、紀元前9世紀ごろから、紀元前585年までアナトリアに存在したウラルトゥ王国となる。ウラルトゥは、現在のトルコ東部のヴァン湖周辺を中心に、メソポタミア北部からコーカサス南部に渡る広大な国土を誇った。領土内には山地が多く、本書では「断崖の王国」と呼ばれている。
主人公は、地中海で奴隷商人の手に落ち、ウラルトゥの王族に買われた青年オリオン。彼は竪琴を手に、伝説を謡って歩く吟遊詩人だった。だが、ロードス島からの航海の途中に海賊に襲われ、地中海の奴隷市場に連れていかれる。そこで彼を待っていたのは、ウラルトゥ王国王族のために従事する運命だった。ヴァン湖のほとり、断崖の王国の首都トゥシュパに連れてこられたオリオンは、その能力をいかして、石切り場での労働から徐々に王宮の中心へと近づいていく。
オリオンが連れてこられた当時のウラルトゥはアッシリア帝国の攻撃にさらされ、衰退期に入る一歩手前だった。王宮の中心部へ近づいたオリオンは、後にアルギシュティ二世となる王子、その妹の王女と知り合い、ウラルトゥ王国と運命を共にすることになる。
イスメット・ベルタンのアナトリア歴史シリーズは、ブルガリア語での翻訳、出版が続いている。

2  Devin Şarkısı /『巨人の唄』
ラジオ放送作家Raife POLAT(ライフェ・ポラット)の初の作品。小学校中学年以上推奨。


©Günışığı Kitaplığı

ラジオ業界で働く作家らしい、音楽とヒットを作り出すしくみ、それに組み込まれて変わっていく人々を描いている。
ギターを弾くのが大好きな少年エンゾは、友人のネリ、カヤといっしょに森へ遊びに行った。そこで、巨人の夫婦イグルとビグルに出会う。エンゾは以前、不思議で魅力的なメロディーを聞いたことがあり、それがイグルが作った音楽だと知った。エンゾは、巨人たちの音楽の才能をインターネットで世界に配信することにした。この不思議な歌はあっというまに評判となり、歌い手である巨人たちを隠しておくことはできなくなってしまった。さらに、アルバムを作って発売することになり、3人の友人と、巨人の夫婦の生活はこれまでとまったくちがうものになってしまう。
挿絵は、Lata Şiba(『ラタ・シバ』、2013年、ギュンウシュウ出版)で、その独特の雰囲気が高く評価されたSadi GÜRAN(サディ・ギュラン)

3  Kömür Karası Çocuk /『石炭色の少年』
ギュンウシュウ出版から作品を発表しているMüge İPLİKÇİ(ミュゲ・イプリッキチ)による、アフリカ移民問題をとり入れた作品。音楽によって結ばれる子どもたちの友情と同時に、どうしても乗り越えることのできない、移民問題の厳しい現実を描いている。小学校中学年以上推奨。


©Günışığı Kitaplığı

主人公のサリフは、アフリカのマリからトルコのイスタンブルへと移住してきた黒人の少年。母さんは、イスタンブルにきてから人が変わったように泣いてばかりいる。ふたりより先に旅立ったミュージシャンの父さんは、ヨーロッパへとわたるために、イスタンブルで新しいパスポートを手に入れようと動いているはずで、必ず迎えにきてくれる約束になっていた。
サリフは、父さんが教えてくれた「音楽の力」を信じ、明るく毎日をすごそうと努めていたが、あまりの心細さに父さんを大声で呼ぶ毎日。それを耳にした、近くの小学校のオーケストラの音楽教師に誘われ、サリフはオーケストラの一員として演奏に参加することになった。だが、トルコの友人たちと仲よくなったサリフの前に、コートのえりを立てた怪しい男が現れるようになる。

4  Çalınan Kent /『盗まれた街』
Gülsevin KIRAL(ギュルセヴィン・クラル)の、オメル・ヘプチョゼル探偵事務所シリーズ第2作。小学校中学年以上推奨。


©Günışığı Kitaplığı

 第1作『イスタンブルが盗まれた!』では、イスタンブルの有名な建築物が次々と盗まれ、ムスタファは夏休みのあいだ、探偵オメルの助手として事件の解決を手伝った。


©Günışığı Kitaplığı

第2作でも、夏休み中のムスタファはオメルの助手として働く。1年前の事件と同じ手口で、また別のイスタンブルの有名な建築物が消えてゆく。さらに、犯人はイスタンブルの広大な森、ベオグラードの森までも盗もうとしているらしい。ムスタファとオメルは犯人の計画を阻止するため、イスタンブル中を駆け回り、最後はブダペストへと向かう。

5  Hayal Kız /『空想好きな女の子』
Leyla Ruhan OKYAY(レイラ・ルハン・オクヤイ)の初の低学年向け作品。小学校低学年以上推奨。


©Günışığı Kitaplığı

オクヤイは、ギュンウシュウ出版架け橋文庫の、Leylek Havada(『コウノトリの空』、2012年)で2012年ヤングアダルト作品の最優秀賞を獲得している。
マーヴィは空想が大好きな女の子。雲に乗って空を飛ぶ夢を見たり、乳母の中には大きなミルクの海があると空想する。自分のお気に入りの赤いボールはひとりでに飛んでいき、文字を覚える勉強もあっというまにゲームになる。マーヴィの想像力はどんどんふくらんでいくが、家族や友だちのなかにいても、空想のことをわかってもらえず寂しい思いをすることもあった。マーヴィは、いっしょに空想をしてくれる新しい友だちを探すことにする。
挿絵のÖzge EKEMKÇİOĞLU(オズゲ・エキメッキチオール)は、この作品がデビューとなる。

6 Behiç AK /ベヒチ・アク
 作家で漫画家のBehiç AK(ベヒチ・アク)の作品が刊行された。Bizim Tombiş Fiyonk Makarnayı Çok Seviyor/『トムビッシュはリボンのマカロニがだいすき』と、Postayla Gelen Deniz Kabuğu/『郵便で届いた貝殻』の2作。
トムビッシュシリーズの第3作となる、『トムビッシュはリボンのマカロニがだいすき』は5歳以上推奨。


©Günışığı Kitaplığı

メモは小さな男の子でいることにすっかりあきてしまった。はやく大人になりたいメモは、色々な人に将来の夢について聞くことにする。最後にトムビッシュに会うと、その答えは思いもかけないものだった。

『郵便で届いた貝殻』は、2013年のYaşasın Ç Harfi Kardeşliği/『Çの友情に乾杯!』(ギュンウシュウ出版)に続くシリーズで、子どもたちとソーシャルメディアの関係を家族の姿を軸にして描いている。小学校中学年以上推奨。


©Günışığı Kitaplığı

小学生の少女スーデの両親は仕事が忙しく、家族がいっしょにすごす時間は少ない。スーデはインターネットのとりこになってしまい、いつも画面に見入るようになってしまった。娘を心配した母は、スーデとインターネットを引き離すため「一大計画」に打って出る。

*  *


次回は、ギュンウシュウ出版の新文庫「ON8」と作品を紹介する。



作家陣プロフィール





İsmet BERTAN(イスメット・ベルタン)
トルコのエーゲ海地方マニサ県生まれ。エルズルム・アタトゥルク大学トルコ文学科を卒業。教師として勤務した後、TRT(トルコ・ラジオ・テレビ協会)のイズミル支局に勤める。プロデューサー、演出として多くの文化、教育番組を担当。2005年には、児童向け作品『カメのトスビー』に、トルコ児童・ヤングアダルト文学出版協会から最高賞が送られた。ギュンウシュウ出版から『カメのトスビー』をはじめとして、数作の児童書を発表している。2006年からスタートしたヤングアダルト向けのアナトリア歴史シリーズが人気となり、2014年の『黄金の囚われ人』で7作目となった。また、このシリーズは、ブルガリアで翻訳、発売されることが決定している。


Raife Polat(ライフェ・ポラット)
1696年、イスタンブル生まれ。イスタンブル大学出版・放送専科ラジオ・テレビ科を卒業。文化・芸術の取材記者・執筆者、ラジオ作家として活動している。初めての児童向け作品、『巨人の唄』(2014年)は、高い評価を受けている。夫、息子、猫と共にイスタンブルに暮らす。


Müge İPLİKÇİ(ミュゲ・イプリッキチ)
イスタンブル大学英文学部を卒業。1996年、1997年と続けて重要なトルコ近代文学の各賞を受賞している。主に一般向けの小説を書いていたが、活動の場を児童・ヤングアダルト文学に移した。ギュンウシュウ出版からは、『飛んだ火曜日』(2010年、ドイツ、スイス、アルバニアで翻訳・出版)、『不思議な大航海』(2012年)などが出版されている。また架け橋文庫の『目撃者は嘘をついた』(2010年)では、その年のヤングアダルト作品の最高賞を受賞した。新文庫ON8でも、作品を発表している。


Gülsevin KIRAL(ギュルセヴィン・クラル)
1959年、トルコの中央アナトリア地方エスキシェヒル生まれ。ボアジチ大学経済学部を卒業後、銀行員として勤務した。一方で、文学研究誌に論考を発表し、翻訳などの活動を行ってきた。ギュンウシュウ出版から、児童向けミステリー『秘密のファイルはどこに?』(2007年)、物語集『のみが床屋でラクダが呼び込み』(2008)を発表している。探偵オメル・ヘップチョゼルのシリーズ『イスタンブルが盗まれた!』『盗まれた街』で人気となった。シリーズ第1作の『イスタンブルが盗まれた!』は、2015年にハンガリーで翻訳・出版が予定されている。夫、ふたりの息子と共にイスタンブルに暮らす。


Leyla Ruhan OKYAY(レイラ・ルハン・オクヤイ)
イスタンブル工科大学建築学科を卒業。2006年、ドイツ語に翻訳された14作のトルコ短編のアンソロジーに作品が収録されている。ギュンウシュウ出版の架け橋文庫では『コウノトリの空』(2012年)で同年のヤングアダルト作品の最優秀賞を獲得している。


Behiç AK(ベヒチ・アク)
1956年、黒海地方のサムスン生まれ。イスタンブルで建築を学んだ後、1982年からジュムフリイェット紙に漫画を連載。児童書作家、漫画家、劇作家、美術評論家、ドキュメンタリー映画監督の顔を持つ。
児童書のうち『ビルにのぼった雲』『ネコの島』『めがねをかけたドラゴン』などは日本語に翻訳、出版されている。また、過去の作品を新しい装丁でギュンウシュウ出版より発表した。『ベヒチ・アクの笑い話』というタイトルにまとめられた物語は、子どもだけでなく大人の読者からも支持を受けている。30年来の漫画を集めた『ベヒチ・アクのイラスト集』も人気を博している。大の猫好きで知られ、イスタンブルに暮らす。