わたしは、切り絵とオリジナルの物語を組み合わせた作品を作る「切絵童話作家」と名乗っているのだが、「切り絵をしているって珍しいですね」とよく人に言われる。
油彩画、水彩画、彫刻、版画…数ある表現媒体の中で、わざわざ「切り絵」を選んだ理由の一つには、子どものころの読書体験が関係している。
小さいころ、家族の誕生日や祝い事があると、よく「花咲き山」というレストランに行っていた。
このレストランの店名は、滝平二郎の切り絵の挿絵でお馴染みの『花さき山』に由来しており、店内の一角には、彼の絵本のシリーズが置かれたスペースがあったと記憶している。
料理を待っている間にそれを読むことがあり、好きな作品は買ってもらったり、図書館で借りてきたりしていた。
『かみなりむすめ』は中でも一番のお気に入りの絵本で、物語中に出てくる数え歌は、今でも諳んじることができる。
幼少期から電車通学していたので、近所に友だちが住んでいなかった上、下校途中の寄り道も禁止されていた。その上、習い事を掛け持ちしていたこともあり、わたしには日が暮れるまで友だちと心ゆくまで遊んだ経験が数えるほどしかない。
そのため、どうしても村の子たちと一緒に遊びたくて、親に黙って下界に降りたかみなりの娘のおシカに深く共感していた。年長の男の子に遊んでもらって、おシカが涙をこぼすシーンを読むたび、今でも胸がじわっと切なく暖かくなる。いいなぁ。
切り絵で物語を表現することを志したきっかけの一つは、まさにこの滝平二郎の切り絵絵本を読んだことだと思う。これからも、自分がかつて心動かされたように、切り絵と物語を通じて、心が優しく暖かくなるような作品を紡ぎ続けたい。
●清重影織(きよしげ・かげおり)
切絵童話作家。小学生のころから宮部みゆきの時代小説を愛読するような、大人びた子どもだった。そのころ抱いた江戸の風習や文化への憧れが、大学での日本文化研究専攻に繋がったのかもしれない。子どものころからずっと物語を書き続けている。そのころに生まれた登場人物たちは、今も心の中に住み、わたしを励まし続けている。
■わたしがくりかえし読む本
『星の王子さま』
清重影織