とにかく、絵ばかり描いている子どもであった。本は、親に与えられたものをいやいや読むという図式。あげく、本文はそっちのけ、ひたすら挿絵を眺めてやりすごしていた。
武井武雄や初山滋の絵はモダンで美しく、魅了された。ディズニーの「チップとデール」の割れたスイカはみずみずしく、「あしながおじさん」の手紙に添えられたコミカルな挿絵には心が躍った。
そんななか、見返しの地図に惹かれて手にとった『公園のメアリー・ポピンズ』は、珍しく夢中で筋を追った。
夜中に身体から離れた影がハロウィンパーティーをする話では思わず自分の影を目で探り、粘土や段ボールでつくった小さな小さな庭にまぎれ込んだ主人公が、粘土の桃を食べたり、動き出した粘土おじさんと会話したりの奇想天外な展開にワクワクした。なかでも、童話のなかの登場人物が現実世界にやってきて、こちらを「絵本」だと主張するくだりは印象深く「この公園の噴水のうしろが、絵では見えなかったのよね」と言われると、見返しの地図とにらめっこ、彼らといっしょになって探検を楽しんだものだった。
改めて読み返し、メアリー・ポピンズの命令口調に瞠目させられたが、子どものころは、窮地を救ってくれるスーパーウーマンであったのだ。
そんなわけで、このお話薫陶よろしく培われた空想癖は、いまもなお続いている。
●北見葉胡(きたみ・ようこ)
神奈川県鎌倉市生まれ。画家。絵本に「絵本・グリム童話」全5巻(那須田淳訳:岩崎書店)、書籍装画に「安房直子コレクション」全7巻(偕成社)など。『ルウとリンデン旅とおるすばん』(小手鞠るい作:講談社)でボローニャ国際児童図書賞受賞。
■わたしがくりかえし読む本
『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル作 ジョン・テニエル絵)
厳密には、くりかえし眺める本。
北見葉胡さんのHP
●ここに出てくる本
『公園のメアリー・ポピンズ』
●P・L・トラヴァース/作
●林容吉/訳
●岩波書店
ALICE’S ADVENTURES
IN WONDERLAND
●AVENEL BOOKS (NEW YORK)
*原書復刻 挿絵はモノクロ
THE NURSERY “ALICE”
「復刻 世界の絵本館
──オズボーンコレクション」32
●ほるぷ出版
*タイトルが THE NURSERY “ALICE” となっているのは、 テニエルの挿絵に色をつけ、子ども向け読み語り絵本として再構成したため。