第27回
1.Bugün Hayal Kuracaktım /『今日は空想するつもりだったの』
ギョクチェ・アテシ・アイトゥーが、「ある同じ日を、二人の子どもそれぞれの目線から描く」を試みた作品の一冊目。少女アスルが主人公となる。ハンデさんは、子どもっぽい理由付けや理屈が楽しい作品と紹介してくれた。小学校中学年以上推奨。
挿し絵は、ギュンウシュウ出版で多くの作品にたずさわる、メルヴェ・アトゥルゲン。
© Günışığı Kitaplığı
アスルは、一週間の中で土曜日が一番好き。翌日は日曜日で休みだし、宿題があっても日曜日にやればいい。何もせずに過ごせる最高の日だと思っている。今週も土曜日を心待ちにしていたのに、朝食のときお母さんが「ペルヴィンおばさんの家に行きますよ」と言いだした。
ペルヴィンおばさんは嫌いではないけれど、アスルはどこにも行きたくなかった。どうしても、「なにもしないで、空想だけする」土曜日を過ごしたかったからだ。だから、パジャマのままふとんにもぐった。実はアスルは「空想し続ける」ことが得意ではない。なぜだかいつも、別の考え事がまざってしまい、空想の世界が完成したことがない。今日は、「ちゃんと空想する」練習をしてみようと思う。
「例えば、わたしに猫のひげとしっぽがあったら、どうかな?」猫ひげつきのアスルは、毎日そのひげを石けんできれいに洗う。一番好きなオレンジ色の洗面器で、真っ青な石けんで泡を立てる……。空想の中で、お風呂が泡でいっぱいになったところで、ペルヴィンおばさんの家に連れていかれるのをなんとか阻止しよう、という考えが入りこんできた。おまけに、お母さんが呼びにきた。
どうしても出かけたくないアスルは、服がないとか、どうしてもしなくちゃいけないことがあると、お母さんを説得する。行きたくないというアスルに根負けしたお母さんは、「早く帰ってきますからね」と言って、出かけた。
これでゆっくり、想像の練習ができると意気込んだアスルだったが、アパルトマンの前の木に登って下りられなくなった子猫を見つけ、家から飛び出した。ところが、カギを忘れて、くつ下にぼさぼさ頭のまま、道に取り残されることになってしまう。
2.Bugün Çok Sıkıldım Ben/『今日はとってもつまらない』
ギョクチェ・アテシ・アイトゥーが、「ある同じ日を、二人の子どもそれぞれの目線から描く」を試みた作品の二冊目。アスルの友だちで、小さな妹の世話にうんざりしている少年アレットが主人公となる。小学校中学年以上推奨。
挿し絵は一冊目同様、ギュンウシュウ出版で多くの作品にたずさわる、メルヴェ・アトゥルゲン。
© Günışığı Kitaplığı
アレットは土曜日が好きじゃない。正確に言えば、「土曜日に降りかかってくるいろんな仕事」が好きじゃない。ちびの妹のめんどうを見るのもいやだ。土曜日の今日は、すごく天気がよくて、薄着でも外で遊べると、気分よく目さめたのに。「アレット、いつまで寝てるの?」「アレット、パンを買ってきて」「アレット、バターもお願いね」ママの攻撃が始まった。毎日学校があればいいのにと、考えた。毎日学校があって、登校したとたんに、休み時間を知らせるベルが鳴ればもっといい。
ママに「アレット! 部屋でいつまでもなにしてるの!」と言われ、「着がえてんだよ、ママ! ちょっとまってよ!」と答えてから、アレットは言われたとおりにお使いに行く。玄関を出てから階段まで、そのあと、アパルトマンの入り口まで、床のタイルを全部踏んでいかなくてはならない、というルールにした。一回は、タイルのふちを踏んでもいいが、二回踏んだらアレットの負け。昨日は最後の最後で負けてしまった。
今日はやりとげた! 「チャンピオン、アレット!」心の中で叫んで、外へ出る。気持ちのいい空気に頭がすっきりして、思いついた。次の火曜日はアレットの誕生日だ。その準備ってことで、妹のアルリンのめんどうは見なくてもいいんじゃないかな。
でも結局、この日はアルリンの世話をまかされた。一緒に公園行くと、木から降りられなくなった子猫を助けようと、みながあれこれしていた。その中に、アスルもいたが、くつ下のままだ。アレットはアスルのことがちょっと好きなのだが、いつも意地悪をしてしまう。それに、家から持ってきたコートを貸そうとしたのに、アスルは着ようとしなかった。つまらなくなったアレットは、誕生パーティーにアスルを招待しようと、計画をねる。
© suzuki ikuko
© suzuki ikuko
イスタンブルには、猫が多い。「街の猫」として、野良猫も地域ぐるみでめんどうを見ている。そのせいか、見かける猫は、だいたい写真のようにくつろいでいて、行動的な猫にはあまり出会わなかった
ギョクチェ・アテシ・アイトゥーが、「ある同じ日を、二人の子どもそれぞれの目線から描く」を試みた作品の一冊目。少女アスルが主人公となる。ハンデさんは、子どもっぽい理由付けや理屈が楽しい作品と紹介してくれた。小学校中学年以上推奨。
挿し絵は、ギュンウシュウ出版で多くの作品にたずさわる、メルヴェ・アトゥルゲン。
© Günışığı Kitaplığı
アスルは、一週間の中で土曜日が一番好き。翌日は日曜日で休みだし、宿題があっても日曜日にやればいい。何もせずに過ごせる最高の日だと思っている。今週も土曜日を心待ちにしていたのに、朝食のときお母さんが「ペルヴィンおばさんの家に行きますよ」と言いだした。
ペルヴィンおばさんは嫌いではないけれど、アスルはどこにも行きたくなかった。どうしても、「なにもしないで、空想だけする」土曜日を過ごしたかったからだ。だから、パジャマのままふとんにもぐった。実はアスルは「空想し続ける」ことが得意ではない。なぜだかいつも、別の考え事がまざってしまい、空想の世界が完成したことがない。今日は、「ちゃんと空想する」練習をしてみようと思う。
「例えば、わたしに猫のひげとしっぽがあったら、どうかな?」猫ひげつきのアスルは、毎日そのひげを石けんできれいに洗う。一番好きなオレンジ色の洗面器で、真っ青な石けんで泡を立てる……。空想の中で、お風呂が泡でいっぱいになったところで、ペルヴィンおばさんの家に連れていかれるのをなんとか阻止しよう、という考えが入りこんできた。おまけに、お母さんが呼びにきた。
どうしても出かけたくないアスルは、服がないとか、どうしてもしなくちゃいけないことがあると、お母さんを説得する。行きたくないというアスルに根負けしたお母さんは、「早く帰ってきますからね」と言って、出かけた。
これでゆっくり、想像の練習ができると意気込んだアスルだったが、アパルトマンの前の木に登って下りられなくなった子猫を見つけ、家から飛び出した。ところが、カギを忘れて、くつ下にぼさぼさ頭のまま、道に取り残されることになってしまう。
2.Bugün Çok Sıkıldım Ben/『今日はとってもつまらない』
ギョクチェ・アテシ・アイトゥーが、「ある同じ日を、二人の子どもそれぞれの目線から描く」を試みた作品の二冊目。アスルの友だちで、小さな妹の世話にうんざりしている少年アレットが主人公となる。小学校中学年以上推奨。
挿し絵は一冊目同様、ギュンウシュウ出版で多くの作品にたずさわる、メルヴェ・アトゥルゲン。
© Günışığı Kitaplığı
アレットは土曜日が好きじゃない。正確に言えば、「土曜日に降りかかってくるいろんな仕事」が好きじゃない。ちびの妹のめんどうを見るのもいやだ。土曜日の今日は、すごく天気がよくて、薄着でも外で遊べると、気分よく目さめたのに。「アレット、いつまで寝てるの?」「アレット、パンを買ってきて」「アレット、バターもお願いね」ママの攻撃が始まった。毎日学校があればいいのにと、考えた。毎日学校があって、登校したとたんに、休み時間を知らせるベルが鳴ればもっといい。
ママに「アレット! 部屋でいつまでもなにしてるの!」と言われ、「着がえてんだよ、ママ! ちょっとまってよ!」と答えてから、アレットは言われたとおりにお使いに行く。玄関を出てから階段まで、そのあと、アパルトマンの入り口まで、床のタイルを全部踏んでいかなくてはならない、というルールにした。一回は、タイルのふちを踏んでもいいが、二回踏んだらアレットの負け。昨日は最後の最後で負けてしまった。
今日はやりとげた! 「チャンピオン、アレット!」心の中で叫んで、外へ出る。気持ちのいい空気に頭がすっきりして、思いついた。次の火曜日はアレットの誕生日だ。その準備ってことで、妹のアルリンのめんどうは見なくてもいいんじゃないかな。
でも結局、この日はアルリンの世話をまかされた。一緒に公園行くと、木から降りられなくなった子猫を助けようと、みながあれこれしていた。その中に、アスルもいたが、くつ下のままだ。アレットはアスルのことがちょっと好きなのだが、いつも意地悪をしてしまう。それに、家から持ってきたコートを貸そうとしたのに、アスルは着ようとしなかった。つまらなくなったアレットは、誕生パーティーにアスルを招待しようと、計画をねる。
© suzuki ikuko
© suzuki ikuko
イスタンブルには、猫が多い。「街の猫」として、野良猫も地域ぐるみでめんどうを見ている。そのせいか、見かける猫は、だいたい写真のようにくつろいでいて、行動的な猫にはあまり出会わなかった
執筆者プロフィール
Gökçe Ateş Aytuğ
(ギョクチェ・アテシ・アイトゥー)
1980年、イスタンブル生まれ。ミマル・シナン大学美術史科を卒業。出版社に勤務し、児童書の翻訳に携わる。地元のイタリアカサマツの木を守ろうとする少女マヤを描いた『マヤの木』(2017)を、ギュンウシュウ出版から発表した。2018年に発表した『今日は空想するつもりだったの』と『今日はとってもつまらない』は、出版にあたり、以前書いたものを新たに書き直した。今後も、児童作品、ヤングアダルト作品の発表をひかえている。
夫、娘とともに、イスタンブルに暮らす。
Merve Atılgan
(メルヴェ・アトゥルゲン)
イスタンブル生まれ。マルテペ大学芸術学部アニメーション学科を卒業。2015年から、トルコ国内外のアニメーション制作会社でデザイナーとして勤務。イラストや漫画の製作も行っている。また、児童向け書籍のデザインなども手掛ける。
ギュンウシュウ出版では、10冊以上の作品の挿絵を担当している。
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Hande DEMİRTAŞ
(ハンデ・デミルタシュ)
1970年、イスタンブル生まれ。大学で、美術品の修復を学ぶ。1995年、ギュンウシュウ出版の創設に関わって以来、同出版社に勤務。さまざまな部署を経て、現在はギュンウシュウ出版の著作全般に責任をもつ副社長として業務にあたっている。会社経営にも携わりつつ、出版される全著作物に目を通し、最終的なチェックを行う役割も担っている。