第25回
1.Uçan Kız Volante /『空とぶ少女 ヴォランテ』
カリン・カラカシュルが、空港を舞台に、絵をかくことと空想が大好きで、ちょっとひねくれた少女ヴォランテが巻き起こす騒動を描く。フルカラーの挿絵は、メルヴェ・アルトゥゲンによる。
小学校低学年以上推奨。
© Günışığı Kitaplığı
ヴォランテは、家族のなかでいつも怒られている。姉のテッサは「ミス・パーフェクト」と呼ばれる、完璧な少女で、ヴォランテに小言を言い続けている。しゃべり始めたばかりの弟のパウロは、かわいいけれど、いたずらとわがままばかり。そのパウロに振り回されるお母さんは、ヴォランテが空想ばかりしていて話を聞いていないと、怒る。お父さんは、ヴォランテに関心がないみたいだ。
ある日、ヴォランテの一家は、家族旅行で空港で飛行機を待っていた。ヴォランテの名前は、イタリア語で「すばやい」とか「空を飛ぶ」という意味だ。だから、ヴォランテは空港が大好きで、飛行機に乗る瞬間を今か今かと待ち構えている。絵をかくのも大好きだから、はやく飛行機の窓から見る景色をかきたいとも思っている。でも、家族には叱られてばかりで、ヴォランテは、家族も周囲の大勢の人もぜんぶ振り捨てて、空に飛びあがってしまいたい、とうんざりしてきた。
ゲームをしていてはっと気がつくと、ヴォランテたちの乗る飛行機の搭乗案内が始まっていて、家族はヴォランテを忘れてずっと先のほうを歩いていた。お父さんとテッサは話し込んでいるし、お母さんはパウロにつききりで、誰もヴォランテがいないことに気がついていない。ヴォランテは、立ち上がると、家族とは反対の方向へ、空港の中をかけだした。
ひとりで空港の中を歩き回るうち、ヴォランテは作家のエシリン、ナイジェリア出身の清掃員の女性アマリ、初孫に会いに行くという老紳士のマッシモに出会う。彼らと話すうち、大嫌いと思っていた家族とひねくれた自分について考えるようになる。
© suzuki ikuko
イスタンブルのアタテュルク国際空港の出発ロビーのようす。これまで、イスタンブルのメインの国際空港は、アタテュルク空港だった。だが、2018年10月29日に、イスタンブルに第三の空港「イスタンブール新空港」が開港した。今後、定期便は徐々に新空港に移され、アタテュルク国際空港は閉鎖される予定である
ヴォランテの一家はイタリア人で、登場人物も基本的には、トルコ人ではない。現代トルコ人作家の作品で(特に、ギュンウシュウ出版の作品の中では)、こういった設定は珍しい。ハンデさんに聞くと、「世界がどこであれ、生活条件にもよりますが、子どもたちの考えたり悩んだりすることの根本は、大きく変わらない。作者はその点も書きたかったのです」と、ご説明いただいた。
2.Gece Güneşi /『よぞらのおひさま』
ハンデさんが、『ヴォランテ』に続き、取り出してきた作品。「カリン・カラカシュルは、主に小学校高学年以上、ヤングアダルト作品を得意にする作家ですが、『ヴォランテ』以前に、一冊、低学年以上向けの作品を書いています。それが、本作です。こちらもまた姉と弟が出てきますが、『ヴォランテ』とはまた違う魅力のある作品です。新作ではありませんが、この『よぞらにおひさま』も紹介したい」と渡してくれた。コラージュの手法を取り入れたフルカラーの挿絵は、シリン・ダーテキン・イェネンによる。
© Günışığı Kitaplığı
弟アルダは、アルヤにいつも質問ばかりしてくる。「おねえちゃん、インドの本当の名前ってなに?」「月には恐竜がいるの?」「だれか、いつか月を盗んじゃうことなんてある?」。アルダは、何か見たら質問しないではいられないのだ。
質問されるアルヤは、なかなか大変だ。夜も遅く、もう眠たいのに、隣のベッドで眠っていたはずのアルダに起こされる。「おねえちゃん、あれ、おひさまじゃないの?」アルダが指さしているのは、満月だった。丸くて、まぶしく輝いていて、太陽みたいに明るく夜を照らしている。アルヤは、眠い目をこすりながら「違うよアルダ。あれは、おひさまじゃなくてお月さま」と答える。でも、アルダは納得しない。あんなに丸いのにと繰り返すから、アルヤはため息をついておきだすと、月の満ち欠けについて教えてやる。
「アルダのお姉ちゃんでいるのは大変」と思っているアルヤと、「おねえちゃんはなんでも知ってる」と思っているアルダの日常を描く短編集。
ギュンウシュウ出版でも、カラカシュルの低学年向け作品の今後に期待しているとのことだった。
カリン・カラカシュルが、空港を舞台に、絵をかくことと空想が大好きで、ちょっとひねくれた少女ヴォランテが巻き起こす騒動を描く。フルカラーの挿絵は、メルヴェ・アルトゥゲンによる。
小学校低学年以上推奨。
© Günışığı Kitaplığı
ヴォランテは、家族のなかでいつも怒られている。姉のテッサは「ミス・パーフェクト」と呼ばれる、完璧な少女で、ヴォランテに小言を言い続けている。しゃべり始めたばかりの弟のパウロは、かわいいけれど、いたずらとわがままばかり。そのパウロに振り回されるお母さんは、ヴォランテが空想ばかりしていて話を聞いていないと、怒る。お父さんは、ヴォランテに関心がないみたいだ。
ある日、ヴォランテの一家は、家族旅行で空港で飛行機を待っていた。ヴォランテの名前は、イタリア語で「すばやい」とか「空を飛ぶ」という意味だ。だから、ヴォランテは空港が大好きで、飛行機に乗る瞬間を今か今かと待ち構えている。絵をかくのも大好きだから、はやく飛行機の窓から見る景色をかきたいとも思っている。でも、家族には叱られてばかりで、ヴォランテは、家族も周囲の大勢の人もぜんぶ振り捨てて、空に飛びあがってしまいたい、とうんざりしてきた。
ゲームをしていてはっと気がつくと、ヴォランテたちの乗る飛行機の搭乗案内が始まっていて、家族はヴォランテを忘れてずっと先のほうを歩いていた。お父さんとテッサは話し込んでいるし、お母さんはパウロにつききりで、誰もヴォランテがいないことに気がついていない。ヴォランテは、立ち上がると、家族とは反対の方向へ、空港の中をかけだした。
ひとりで空港の中を歩き回るうち、ヴォランテは作家のエシリン、ナイジェリア出身の清掃員の女性アマリ、初孫に会いに行くという老紳士のマッシモに出会う。彼らと話すうち、大嫌いと思っていた家族とひねくれた自分について考えるようになる。
© suzuki ikuko
イスタンブルのアタテュルク国際空港の出発ロビーのようす。これまで、イスタンブルのメインの国際空港は、アタテュルク空港だった。だが、2018年10月29日に、イスタンブルに第三の空港「イスタンブール新空港」が開港した。今後、定期便は徐々に新空港に移され、アタテュルク国際空港は閉鎖される予定である
ヴォランテの一家はイタリア人で、登場人物も基本的には、トルコ人ではない。現代トルコ人作家の作品で(特に、ギュンウシュウ出版の作品の中では)、こういった設定は珍しい。ハンデさんに聞くと、「世界がどこであれ、生活条件にもよりますが、子どもたちの考えたり悩んだりすることの根本は、大きく変わらない。作者はその点も書きたかったのです」と、ご説明いただいた。
2.Gece Güneşi /『よぞらのおひさま』
ハンデさんが、『ヴォランテ』に続き、取り出してきた作品。「カリン・カラカシュルは、主に小学校高学年以上、ヤングアダルト作品を得意にする作家ですが、『ヴォランテ』以前に、一冊、低学年以上向けの作品を書いています。それが、本作です。こちらもまた姉と弟が出てきますが、『ヴォランテ』とはまた違う魅力のある作品です。新作ではありませんが、この『よぞらにおひさま』も紹介したい」と渡してくれた。コラージュの手法を取り入れたフルカラーの挿絵は、シリン・ダーテキン・イェネンによる。
© Günışığı Kitaplığı
弟アルダは、アルヤにいつも質問ばかりしてくる。「おねえちゃん、インドの本当の名前ってなに?」「月には恐竜がいるの?」「だれか、いつか月を盗んじゃうことなんてある?」。アルダは、何か見たら質問しないではいられないのだ。
質問されるアルヤは、なかなか大変だ。夜も遅く、もう眠たいのに、隣のベッドで眠っていたはずのアルダに起こされる。「おねえちゃん、あれ、おひさまじゃないの?」アルダが指さしているのは、満月だった。丸くて、まぶしく輝いていて、太陽みたいに明るく夜を照らしている。アルヤは、眠い目をこすりながら「違うよアルダ。あれは、おひさまじゃなくてお月さま」と答える。でも、アルダは納得しない。あんなに丸いのにと繰り返すから、アルヤはため息をついておきだすと、月の満ち欠けについて教えてやる。
「アルダのお姉ちゃんでいるのは大変」と思っているアルヤと、「おねえちゃんはなんでも知ってる」と思っているアルダの日常を描く短編集。
ギュンウシュウ出版でも、カラカシュルの低学年向け作品の今後に期待しているとのことだった。
執筆者プロフィール
Karin Karakaşlı
(カリン・カラカシュル)
1972年、イスタンブル生まれ。ボアズィチ大学の外国語学院の翻訳・通訳学科を修了。イェディテペ大学大学院で比較文学を修める。1998年に、ヤシャル・ナービ・ナユル若手文学賞を受賞。その後、1999年から精力的に作品を発表している。過去の作品を厳選し、ギュンウシュウ出版で復刻も行っている。
児童書作品、ヤングアダルト作品を発表する一方で、アゴス紙で副編集責任者を務め、コラムの連来を続けている。小学校低学年向けに『よぞらのおひさま(Gece Güneşi)』(2011)を発表して以降は、ギュンウシュウ出版では主にヤングアダルト作品に力を入れてきた。『お屋敷の人たち(Konaktakiler)』(2016)で、小学校中学年以上の作品に挑戦してから、低学年向けの作品にも意欲を示す。イスタンブル在住。
Merve ATILGEN
(メルヴェ・アトゥルゲン)
1989年、イスタンブル生まれ。マルテペ大学芸術学部アニメーション学科を卒業。トルコ国内外のアニメーション制作会社でデザイナーとして勤務。イラストや漫画の製作も行っている。また、児童向け書籍のデザインなども手掛ける。
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Hande DEMİRTAŞ
(ハンデ・デミルタシュ)
1970年、イスタンブル生まれ。大学で、美術品の修復を学ぶ。1995年、ギュンウシュウ出版の創設に関わって以来、同出版社に勤務。さまざまな部署を経て、現在はギュンウシュウ出版の著作全般に責任をもつ副社長として業務にあたっている。会社経営にも携わりつつ、出版される全著作物に目を通し、最終的なチェックを行う役割も担っている。