──ギュンウシュウ出版でのお仕事を教えてください
ジャナン・トパルオール(以下C・T) 現在、ギュンウシュウ出版では、編集出版コーディネーターとして勤務しています。作品が企画書として編集部にやってきてから印刷にかけられるまでの、すべての工程に携わります。担当の編集者と共に、その作品に相応しい装丁担当者、素材担当者などと連携を図りつつ、可能な限りスムーズに作品を世に送り出す。そのための基礎となり、潤滑油となるのが、私の仕事です。
たとえば、編集者の校閲作業に必要な資料を集める。作品の紹介文やキャッチコピーの作成や、作者やイラストレーターの紹介のための資料の作成。編集部からの作品の特徴についての決定事項が、各責任者に確実に伝わるように手配をする。
1冊の本を生み出すためにありとあらゆる細かいところに関わるのが、私の仕事です。
──児童書編集者、とくにギュンウシュウ出版での編集者として働くことを選んだのはなぜですか?
C・T トルコの児童書とヤングアダルト作品において、非常に重要な位置を占めている出版社だからです。
子どもたち、若い人たちの心や頭は、規律や禁止事項、そして凝り固まった思想といったような「既成事実」にまだ縛られてはいません。ですから、ある作品を読んだとき、その作品が読者に伝えることができる意味やメッセージのすべてをつかみとって読むことができます。彼らは、世界で最も心豊かな読者です。
作品を作者の手から──つまりその物語をデザインした者の手から──受けとって、新たに自分の中で世界を構築し、その物語の最終的な創造者となる。この点において彼ら以上のことができる大人はいないのです。世界一の読者のために、世界一の作品を送りだせる。私はその喜びのためにこの職業を選びました。
ギュンウシュウ出版は、20年前のトルコで、未だ児童書とヤングアダルトの出版社という概念が確立されていない時代に、雄々しくもこの世界へトルコにおける第一歩を踏み出した出版社です。それ以降、試行錯誤を繰り返し、経験を積み重ね、今日では熟練した編集者が揃う出版社となっています。この年代の読者たちが、どのような作品を欲しているのかまたは必要か、時代によって変化するこの問題に歩調を合わせ、良い品質の作品を送りだせる出版社です。
世界とトルコの厳選された現代作品を、細部まで注意を払って出版し、読者に届けられること。これが、私がギュンウシュウ出版の一員として働きたいと思った、一番の大きな理由だと思います。
──子ども時代、学生時代、本との関係はどうでしたか? その頃から編集者になる夢はありましたか?
C・T 出版の仕事に携わる多くの方々同様、私も子ども時代、学生時代と本といっしょに育ち、自分の外の世界への興味を本によって掻き立てられてきたひとりです。当時から、子どもたちに語られるお話のすぐそばで生きていくのだろうと思っていました。そして、それが実現しましたね。
──これまで手がけられた作品から、ご紹介ください
C・T 2014年に出版したもっとも重要な作品のひとつが国際的にも名を知られているミュゲ・イプリッキチの作品で、挿絵は芸術家としても活躍するフバン・コルマン。作品名はKömür Karası Çocuk(石炭色の少年)です。
©Günışığı Kitaplığı
トルコの難民支援施設に暮らすアフリカのマリからやって来た少年サリフの物語。難民であることの心理的・肉体的な重荷に耐えられなくなったサリフは、音楽家である父と同じように音楽の楽しみに目覚め、未来に希望をもとうとします。音楽の癒しの力、友との結びつき、そして移民問題を、子どもの目線とことばで描くことに成功しました。装丁もとてもすばららしいと思います。
──現在と未来の児童書の世界において、ギュンウシュウ出版の役割とは何でしょうか?
C・T ギュンウシュウ出版の役割とは、毎年、トルコと世界で生み出される良質の児童作品、ヤングアダルト作品を選び出し、きちんとした「書籍」というかたちにして読者へと送り出すことです。政治的なものや硬化した考えに屈することなく、品質に譲歩することなく。子どもたち、ヤングアダルト世代の読者へ、「良い作品」を届け続けること。それが、今も未来も変わらない私たちの使命だと思っています。
──理想の編集者の姿とは?
C・T 私の理想とする、そしてなろうと努めている編集者とはこうです。
子どもたち、ヤングアダルト世代へのために自身の人生を捧げられる。自分以外の人の人生を深く理解できる。ことばというものの魔力を感じとり、操ることができる。それによって、作品を最高の状態に仕上げ、誰もの好奇心をくすぐる装丁を実現できる。その最高の作品を、皆さんに届けることができる編集者になりたいのです。
──ありがとうございました
C・T こちらこそ。トルコの作品がもっと世界に出るようになればうれしいです。
ギュンウシュウ出版の方々にお話をうかがってきたこの連載は、ここで一度終了となります。
毎年のイスタンブル・ブックフェアの新刊のご報告はさせていただきますので、これからのギュンウシュウ出版の活躍をお待ちください。
編集者・作家陣プロフィール
Canan Topaloğlu
(ジャナン・トパルオール)
ギュンウシュウ出版の編集者、編集コーディネーター。イスタンブル生まれ。大学でコミュニケーション学を専攻。雑誌編集者、映画製作の現場を経て、ギュンウシュウ出版に入社。
Müge İPLİKÇİ(ミュゲ・イプリッキチ)
イスタンブル大学英文学部を卒業。1996年、1997年と続けて重要なトルコ近代文学の各賞を受賞している。おもに一般向けの小説を書いていたが、活動の場を児童・ヤングアダルト文学に移した。ギュンウシュウ出版からは、『飛んだ火曜日』(2010年、ドイツ、スイス、アルバニアで翻訳・出版)、『不思議な大航海』(2012年)などが出版されている。また架け橋文庫の『目撃者は嘘をついた』(2010年)では、その年のヤングアダルト作品の最高賞を受賞した。新文庫ON8でも、作品『隠れ子』を発表している。
Huban KORMAN(フバン・コルマン)
1959年イスタンブル生まれ。1983年に現在のミマル・スィナン大学に入学。グラフィック学科で学ぶ。広告会社に勤務するかたわら児童書の挿絵を多く手がけ、さまざまな賞を受賞。2008年に挿絵部門でIBBYの名誉会員となった。2010年には、トルコの児童・ヤングアダルト出版協会から最優秀芸術賞を授与された。
ギュンウシュウ出版では『小さな魔女シェロクス』シリーズ、『炎の髪の少女』(クリスティーン・ノストリンガー)、『王様のマーブルもよう』(アイセル・ギュルメン)など、多くの作品の挿絵を手がけている。