企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第78回 

ギュンウシュウ出版2025年秋の新刊①

1.Çölde Piknik /さばくでピクニック

ボローニャ展などで国際的な評価が高まってきているフバン・コルマンが文章と絵を手がけたフルカラーの絵本。作家自身の幼少期の思い出をもとにした温かみのある物語に仕上がっている。
 
いわゆるクリーンエネルギーの問題をテーマとしている。製油所の近所に暮らすある家族のピクニックのようすを介して、自然の力と科学の関係に子どもたちの目を向けようという作品。
 
5・6歳以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
ある日、ムスタファの父さんがピクニックをしようと言いだした。喜んだムスタファはすぐに準備をはじめる。必要なものは全部持って、一家は出発した。
 
さわやかに吹く風の中のピクニックを想像していたのに、向かう道にはちょうどいい日陰になるような木なんて一本もなかった。仕方なく石油掘削機(注:地中の石油を掘り出す機械。作品の表紙の絵に描かれている)の日陰に避難しようと、一家は黄色く広がる砂漠を進んでいく。近づくにつれ恐ろしげな音が聞こえてきて、ムスタファはお姉ちゃんのスカートにしがみついた。
 
お姉ちゃんが楽しいピクニックを想像してはいろいろ話すと、それを聞きつけたエンジニアのユジェルおじさんが、とあるサプライズを約束してくれた。
 

2.Dikkat İnsan Çıkabilir! /ちゅうい! にんげんがでてくるかもしれないよ!

児童向け読み物やヤングアダルト作品を多く手掛けてきたフュスン・チェティネルによる初めての絵本。挿絵は、子ども向けのワークショップも多く開催し、画家・イラストレーターとして評価されるジャンス・ディンチが担当した。
 
遊び心あふれるフルカラーの作品。
 
5・6歳以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
冬眠から突然目覚めてしまったヒグマ家族の物語。まだ冬が終わっていないのに、ヒグマ一家は冬眠から目覚めてしまった。まだこんなに眠いのに、冬眠していた洞窟の外から聞こえてきた変な物音がみんなの眠りを邪魔したのだ。
 
寝床を出てきた一家は、森から聞こえてくる音の正体を確かめに出かけた。するとそれは人間が出す音だった! 草原のあちこちにはプラスチックなどのゴミが散乱し、木々の枝にはブランコがかけられている。谷川には釣り竿が垂れ、マスがどんどん釣りあげられていく。そして、彼らの叫び声によって静かだった森が大騒ぎになっていた。
 
驚いたクマの一家だが、人間を森から追い出す方法を考えることにする。
自然界の静けさを乱す、また自然の中に暮らすものが遭遇する「本当の危険」とは何かを、温かみのある文章と絵で語る。
 
秋の絵本2冊はともに自然界をテーマとしたものとなった。

作家プロフィール


Huban Korman
(フバン・コルマン)
イスタンブル生まれ。1983年、イスタンブル国立美術アカデミー(現ミマル・シナン美術大学)のグラフィック学科を卒業。以降30年、広告代理店でアートディレクターとして勤務した。そのかたわら、多くの児童向け作品や雑誌にさし絵やイラストを提供した。
2008年、イラスト部門でIBBYのトルコ・オナーリストに選出された。また、2021年にはアストリッド・リンドグレーン記念文学賞の候補ともなった。トルコ国内では2010年にÇocuk ve Gençlik Yayınları Derneği(ÇGYD/児童・ヤングアダルト図書協会)のデザイン賞を受賞している。
ギュンウシュウ出版では多くの作品にさし絵を提供してきたが、近年は自ら執筆することにも力を入れている。第一作として、トルコ共和国建国100年を記念して「ああなんてすてきな日!」(2023)を発表した。2024年に出版された『これ、どんなワニ?』(レッドハウス・キッズ出版)が、2025年ボローニャ・ラガッツィ賞特別選考作品に選出された。最新作は、『砂漠でピクニック』(2025)。
イスタンブルに暮らす。 
 
 
Füsun Çetinel
(フュスン・チェティネル)
イスタンブル生まれ。オーストリア高校を卒業後、ボアズィチ大学英語教育学科を修了する。教師として勤務するかたわら、イギリスで語学学校のスタッフとしても活動。児童・ヤングアダルトを対象とした物語のワークショップを開催する。また、トルコ国外の児童・ヤングアダルトのキャンプなど、社会問題のプロジェクトにも参加している。
イスタンブルのアヤソフィアに隠された秘密を追う『アヤソフィアはうたう』(2015)が最初の児童向け小説となる。ドイツから南エーゲ海にある古代の石棺で有名なカシュへと物語が展開する『秘密の道』(2016)など、小学生向けの作品ののち、『壁の前の三週間』(2017)でヤングアダルト作品を手掛ける。その後も、『チコが選んだもの』(2018)、『小さくて汚い緑の虫』(2019)など、小学校高学年以上を対象とした作品を執筆。2021年には、ヤングアダルト向け作品『起こらなかったこと』、2022年には児童向け作品『女王さまの冒険-たのしいお話みっつ』、2024には急速にコンクリート化が進む街を守ろうとする子供たちを描いた『最後の庭』を発表した。
夫とともにイスタンブルに暮らす。
 
  
執筆者プロフィール


鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。 
 
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)