企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第45回 

ギュンウシュウ出版2021年春の新刊②

1.Gümüşsu Zamanı /『銀色の水のとき』

サリハ・ニリュフェルが、地球に似た、砂漠におおわれたとある惑星での冒険を描く。好奇心いっぱいの少女が、自然が失われた惑星で、かつての自然の姿をひと目見ようと奮闘する。本作が、サリハ・ニリュフェルのギュンウシュウ出版での第1作となる。
 
小学校中学年以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
地球によく似た惑星ヒブリス。いつからかわからないが、砂漠に覆われ、緑やそこに生きる生きものが姿を消してだいぶ経つ。ヒブリスにはサルドゥンという都市がある。その日、サルドゥンの天気予報士は、2日間砂嵐が続くため、住民は外へ出ないようにと予報した。砂から町と住民を守るため、サルドゥンの都市全体は巨大なガラスのドームで覆われている。
 
こんな日には、サルドゥンの住民たちは表へ出ない。ミンヌをのぞいては。ミンヌは、「こんな日に外へ出なくても。砂嵐が来る前に戻りなさいよ」と心配する母さんをよそに、手押し車に食料をつめて、黒い穴の洞窟に住むグディたちに持っていこうとしていた。グディは猫に似た生きもので、亀のように長生きでリスのようにすばしこい。一番素晴らしいのは、オリーブ色をした1メートルのしっぽと、大きなアーモンド形の目。この生きものたちに食べものを運ぶのがミンヌの習慣になっていた。
 
都市を取り囲む砂漠へ旅に出た人たちはだれも戻らなかった。だから、黄色の牧草地から向こうへ行くのは禁止されている。禁止されてはいなくても、三本木の道を抜けて黒い穴の洞窟などに行く住民はいなかった。ミンヌをのぞいては。
 
グディたちに食べものを運び続けたミンヌは、彼らの信頼を勝ち取り、緑と恵みの雨に満ちた「自然」の話を聞き、すっかり魅了される。
 
 

2.Günlükte Saklı Sırlar /『日記の中の秘密』

舞台は1980年代のとある小さなホテル。『沼のほとりの家』『フクロウの誓い』などで秘密を追う主人公を描いたイェシム・サイグンが得意とする、冒険小説。日記に隠された秘密を解決しようとする少年と少女の夏の冒険を描く。
 
小学校中学年以上推奨。
 

© Günışığı Kitaplığı

 
アテシはすっかりふてくされていた。父さんは何も説明しないまま、親友の親友であるバハルさんの経営するホテルに、アテシをほうりこんで行ってしまったのだ。ひと夏、ここで働けということだ。友だちと一緒なら今ごろ海で泳いでいたのに、バカンスにも行けないのにバカンスに来た客の世話をするなんて最低だ、とアテシは考えていた。それに、バハルさんはアテシのことを「お砂糖ちゃん」などと呼ぶ。もうすぐ15歳になるのに、「お砂糖ちゃん」なんて、侮辱以外の何ものでもない。
 
ある日、ホテルで提供するケーキを取りに行かされたカフェで、アイラという少女と知り合う。カフェの娘アイラは、消防士のようにすべり棒を下りて店に出てきた。びっくりしたが、この出会いで、アテシの最悪の夏は違う方向へ動きだす。
 
アイラの一族の年長者インジから、40年前にふりかかった出来事について話を聞かされ、ふたりはこの土地のことが気になってしかたなくなった。ホテルの年老いた庭師が、ずっと託されていた古い日記をアイラに渡した。その中に40年前の秘密が隠されていると考えたふたりは、すぐに調査をはじめた。しかし、色で暗号化された日記を読み解くのは簡単なことではなかった。さらに、ホテルの客のひとり、やたらにまばたきする男がふたりのことを監視していた。
 

作家プロフィール


Saliha Nilüfer
(サリハ・ニリュフェル)
 1972年、イスタンブル生まれ。当初は詩人として活動しており、作品は多くの雑誌に掲載されている。英語、スペイン語、カタルーニャ語の翻訳で知られ、主にアルベルト・マングエル、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、マリオ・バルガス・リョサ、バビエル・マリアスらの作品の翻訳を行っている。
 2006年の小説『アンダルシアの物語』に続き、詩集『消える冒険』(2016)などを発表。ギュンウシュウ出版では、2021年の『銀色の水のとき』が最初の作品となる。
 夫、息子とともにイスタンブルに暮らす。
 

Yeşim Saygın
(イェシム・サイグン)
ブルサ生まれ。イスタンブル大学獣医学部を卒業したのち、マルマラ大学薬学部で博士課程を修了する。詩や散文が様々な雑誌に掲載されている。1996年、ヤシャル・ナービ・ナユル・ヤングアダルト文学賞の「注目すべき詩人」賞を受賞。
最初の児童むけ作品は『幽霊湖の子どもたち』(2005)。続いて、『ハーモニカ吹き』(2006)、『沼のほとりの家』(2007)が発表された。『沼のほとりの家』は、同年、ÇGYD(児童・ヤングアダルト図書協会)の、最優秀こども向け物語作品審査員特別賞に選出された。ほか作品は『フクロウの誓い』(2012)。
夫とともにボドゥルムに暮らす。娘がひとり。
 
 
執筆者プロフィール


鈴木郁子
(すずき・いくこ)
出版関連の会社に勤務後、トルコへ留学。イスタンブルで、マルマラ大学大学院の近・現代トルコ文学室に在籍し、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。 
 
帰国後は、トルコ作品、特に児童書やヤングアダルト作品を日本に紹介しようと活動を続けている。トルコ語通訳・翻訳も行う。トルコ文芸文化研究会所属。 著書に『アジアの道案内 トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部)、翻訳に『オメル・セイフェッティン短編選集』(公益財団法人 大同生命国際文化基金)