企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第42回 

1.Eksik Dünya BALTI /『失われた世界 バルト』

『ラタ・シバ』で独特のファンタジー世界を生み出したイレム・ウシャルが、再び挑んだファンタジー小説。地上の戦争をのがれ300年前に地下にのがれた人びとは、バルトという国を築いた。静かだったバルトに、ある年、異変が訪れる。
 
小学校高学年以上推奨
 


 © Günışığı Kitaplığı

 

バルトの民は300年のあいだ地下にひそみ、「統率者」が引き起こした地上の戦争を避け続けてきた。しかし、ある年の「ウロボロスの祭り」で異変が起こる。

ウロボロスの祭りは、地下にもぐって以来続くバルトの新年の行事であり、穴からはい出してきた一匹のヘビが、自分の尾をくわえられるか否かによって、その年を占う。くわえられれば、地球は回り続け、地上の世界では四季が順ぐりに巡り、地下の世界はなんの異変もなく、平和に続いていくことになる。そして、ヘビが自分の尾をくわえられなかったことは、一度もなかった。
 
その年もバルトの民は、ウロボロスの祭りの祭祀の洞窟に集まり、大きな松明をたいて、自分の尾をつかまえようとするヘビを一心不乱に眺めていた。たいこが、静かな心臓の鼓動のテンポで鳴りはじめ、だんだんと速くなっていく。人びとの興奮も高まっていく。そしてついに、ヘビが自分の尾をくわえた。安心した人びとは、祭祀の洞窟を出て行こうとするが、そこにイドいちぞく一族のひとりから「これは、どうしたことだ!」という叫びがあがった。
 
人びとがふり向くと、ヘビはくわえた自分の尾から、ゆっくりと自身を飲みこんでいくところだった。これまでになかったことだ。ヘビは自身を飲みつづけ、最終的には消えてなくなってしまった。
 
これを発端にして、バルトでは奇妙なできごとが起きるようになる。だれにも理解できない言語を話す家族が出てきたり、一日を知らせる天井の電球が溶けだしたり。イド一族の若者たちは、自分たちが地上に出て行かなくてはならない時が来たとさとる。
 
 

2.Kahkaha Keki /『大笑いケーキ』

架け橋文庫、ON8文庫など、広い年齢層の読者に向けて作品を発表してきたチーデム・セゼルの、ギュンウシュウ出版では初めての子ども向け詩集。毎日の生活の中で気がついた小さなことを短い詩にしている。
 
フルカラーの挿し絵は、サディ・ギュラン。
 
小学校中学年以上推奨。

 

 © Günışığı Kitaplığı

 
 
最初の詩「わたしをそだててくれたのは、ママ」では、この世界のことを知りたいと思う子どもが、目に入ったところから、母にいろいろな質問をする。
あんなに大きな太陽があるのに、寒いのはなぜ? 雪だるまはとけたら、どこへいくの? 虹をつかまえたいとき、どうやって雲にのぼったらいい? 光の階段が作れたら、星にさわることができる? いくつも質問を重ね、「ママの知ってることは、わたしも全部知りたいの」と言う。
 
そして、「お母さんのおなかの中で、赤ちゃんはどうやって大きくなるの?」と聞き、「ママが、わたしのこと大きくしてくれたのよね」と結ぶ。
そのほかの詩は、「地球はみんなの家」「大笑いケーキ」「風船売りの子」「リンゴの木」「手の中に空」「おばあちゃんのめがねたち」「ヒーロー・パパ」「ことばは虹色」「ことばには目があるの」など。
 
 

作家プロフィール


 
İrem Uşar
(イレム・ウシャル)
1975年、イスタンブル生まれ。ノートルダム・ド・シオン高校を卒業後、マルマラ大学ラジオ・テレビ・映画学科を修了。特派員、編集、文筆家として活動する。2012年、国際ペンクラブの招待により、ベルギーのアントワープで開催されたワークショップに参加。そこで、トルコのエーゲ海沿岸アッソスに建つ、スィヴリジェ灯台をテーマにした『灯台のひかり』(2011、ギュンウシュウ出版)を執筆する。
 
同年に発表した『こひつじちゃーんと遊園地みたいな一家』(2011)は、ÇGYD(児童・ヤングアダルト図書協会)の、その年の最優秀こども向け物語作品に選出された。『ラタ・シバ』(2013)、『ねむりをさがす女の子』(2016)、『まっすぐ線がとんぼがえり』(2018)、『牧草となる』(2015、ON8文庫)などを発表している。
 
飼い犬たちとともに、イスタンブルに暮らす。
 

Çiğdem Sezer
(チーデム・セゼル)
黒海地方のトラブゾン生まれ。アンカラ・ゲヴヘル・ネスィベ保健教育研究所卒業。看護師、教師として勤務した。さまざまな雑誌に詩が掲載されるようになり、最初の詩集は1991年に発表された。1993年の詩集『狂った水』で、デュンヤ・デルギスィ誌の賞を受賞する。その後、詩集で多くの賞を受賞する。
 
2014年、子ども向けの詩集『アルファベットからにげだした文字』で、トゥルカン・サイラン芸術賞を受賞。児童向け作品『ジュジュ、わたしをわすれないで』(2015)で、コジャエリ・オルタドーウ工業大学児童文学賞を受賞する。その後は、ヤングアダルトを中心に作品を発表。ギュンウシュウ出版でも、『隠された春』(2017、ON8文庫)、『ハヤット菓子店』(2017、架け橋文庫)がある。『トラック・カフェ』(2019)は、同年のIBBYのオナーリストに登録された。
 
 
 
 
執筆者プロフィール


鈴木郁子
(すずき・いくこ)

「トルコ文学を学ぼう」と決め、出版関係の仕事を辞め、再び学生になるためにトルコ入りしたのは、2006年4月のこと。日本の大学で学んだのは日本の上代文学で、トルコ文学のことは何も知らなかった。
 
語学学校を経て、トルコはイスタンブルのマルマラ国立大学大学院に合格したのが2008年9月。トルコ学研究所の近・現代トルコ文学室に籍を置き、19世紀末から現代までのトルコ文学を学んできた。トルコ語で書いた修士論文のテーマは『アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響』。帰国後も、近・現代トルコ文学研究、翻訳、通訳、講師など、トルコ語に携わる。児童書を含め、トルコ文学を少しでも日本に紹介しようと動いている。