企画・編集・制作工房 株式会社本作り空 Sola
 

第34回
 

1.Kamyon Kafe /『トラック・カフェ』
詩人でもあるチーデム・セゼルの、普通の人びとの楽しみや愛情をテーマにした短編集。とあるいなかの村に祖父と祖母と暮らす少年、その周囲の人びとの毎日の生活の中でまきおこるできごとや、関係性を描く。

 
 
小学校中学年以上推奨。

 
 

© Günışığı Kitaplığı

 


 
 
現代社会のアスファルトの世界やテクノロジーからは遠く離れた、とあるいなかの村。ドアにカギなどかけないどころか、いつも開けっぱなしにしてあるような村である。母を亡くし、父は遠方にいる主人公の少年は、デルヴィシュおじいちゃんと、ムカッデルおばあちゃんといっしょに暮している。

 
 
ある日、おじいちゃんとおばあちゃんが軽い口げんかをした。おじいちゃんは、「頭の上からつま先まで、お前の上からバラの花びらを降らせたときには、そんなじゃなかったのになあ」わざと残念そうに言った。ぼくは、がぜん気になった。「どういうこと? おじいちゃん、おばあちゃんの上にバラの花びらを降らせたの?」

 
 
おじいちゃんは、得意満面に、若いころおばあちゃんにプロポーズしたときのことを話してくれた。おばあちゃんは、村でいちばんの美人だったそうだ。道を歩けばみんながふり向いた。もちろんおじいちゃんも、おばあちゃんに恋していた。

 
 
「でもな、おばあちゃんも、わしのことが好きだった! ところが、知っとるだろ、気が強い!」

 
 
ぼくはよく知っている。おばあちゃんは怒ったらフライパンの油をおじいちゃんにかけちゃうような人だ。もちろん冷めた油だけれど。その後はちゃんと洗ってくれる。そんなおばあちゃんのことがおじいちゃんは大好きで、「ムカッデル・スルタン!(注1)」と呼んでいる。

 
 
トルコのどこかに必ずあるような普通の村に生きる普通の人びとが生き生きと描かれている。また、時が止まったような懐かしさも感じられる作品であると編集部は評価している。
 
 
 
2.Radyo Pencere /『ラジオの窓.』
ハジェル・クルジュオールが、家族とうまくコミュニケーションを取れない少年がラジオを通して変わっていく姿を描く。両親が離婚し、その間でおぼれそうになっている少年の心の声をくみ上げるような、トルコのエーゲ海地方にあるイズミルでのひと夏の冒険の物語となっている。

 
 
小学校高学年以上推奨。

 
 

© Günışığı Kitaplığı



 
 
 
エキムの両親が離婚した。そもそも母さんは「家庭の中にある」ことが苦手だったし、家にいると常にピリピリしていた。父さんには、「どうしてもっと子どもに関わらないのよ!」と怒っていた。父さんとエキムは、ピザを食べながらテレビ番組に没頭しているふりをして、家の張りつめた空気から逃げようとばかりしていた。

 
 
父さんは養蜂家で、エキムはその仕事を手伝い犬のめんどうを見たけれど、やはり孤独だった。父さんとどうやって話したらいいのかわからない。そのストレスのせいか、体の中でずっとハチの羽音が聞こえている。

 
 
ある日、家で見つけた謎のカギがエキムの毎日を一変させる。カギで開けた部屋にいた、黒いくせ毛の女の子アスヤとそのおじいさんが、突然、エキムの毎日に加わった。

 
 
三人は、半地下の小さな部屋の窓の前で、「窓から生放送」というラジオ番組を始める。ラジオでしゃべっているうちに、エキムは父さんとの会話が少しずつ変わってきたことに気づく。

 
 
何をどう言い表せばよいのか知らなかったエキムは、自分のことばを見つけ、自分の表現で話を続けられるようになり、いつかハチの羽音から解放される日が来ると待ち望むようになる。

 
 
作者のハジェル・クルジュオールは、エキム少年の物語をずっと温めていた。ブルサの養蜂家に話を聞く機会を得てこの作品にすることを決意したと語っている。
 
 
注1:「スルタン」は、オスマン帝国皇帝の称号であると同時に、王妃や王女に対する称号としても用いられる。女性の場合は、名前の後ろにつく。
 
 

 
 
 
執筆者プロフィール
 


 
Çiğdem Sezer
(チーデム・セゼル)
黒海地方のトラブゾン生まれ。アンカラ・ゲヴヘル・ネスィベ保健教育研究所卒業。看護師、教師として勤務した。さまざまな雑誌に詩が掲載されるようになり、最初の詩集は1991年に発表された。1993年の詩集『狂った水』で、デュンヤ・デルギスィ誌の賞を受賞する。その後、詩集で多くの賞を受賞する。
 
2014年、子ども向けの詩集『アルファベットからにげだした文字』で、トゥルカン・サイラン芸術賞を受賞。児童向け作品『ジュジュ、わたしをわすれないで』(2015)で、コジャエリ・オルタドーウ工業大学児童文学賞を受賞する。その後は、ヤングアダルトを中心に作品を発表。ギュンウシュウ出版でも、『隠された春』(2017、ON8文庫)、『ハヤット菓子店』(2017、架け橋文庫)がある。『トラック・カフェ』は。IBBYのオナーリストに登録されている。
 

Hacer Kılcıoğlu
(ハジェル・クルジュオール)
エーゲ海地方のマニサのアラシェヒル生まれ。英語教師として勤務した。旅行好きで知られている。自身の子ども時代の思い出を『わたしはむかし子どもだった』(2003)、『ジャーレと語る』(2006)にまとめている。
 
最初の児童向け作品は『木曜日がとても好き』(2009)で、続いて同じ地区で育った三人の芸術家の子ども時代を描いた『イズミルの三人の子―セゼン、ハルク、メルテム』(2010)を発表した。また、旅行での体験を反映させた『お月さまはどこにでも』(2012)は、Çocuk ve Gençlik Yayınları Derneği(ÇGYD/児童・ヤングアダルト図書協会)の、「2012年の物語」に選ばれた。
 
2015年の『山は沈黙し、山は語る』で、ヤングアダルト作品にも挑戦した。最新作は『ラジオの窓』(2019)。
 
夫とふたりの子どもとともにイズミルで暮らす。
 
 

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Hande DEMİRTAŞ
(ハンデ・デミルタシュ)
 
1970年、イスタンブル生まれ。大学で、美術品の修復を学ぶ。1995年、ギュンウシュウ出版の創設に関わって以来、同出版社に勤務。さまざまな部署を経て、現在はギュンウシュウ出版の著作全般に責任をもつ副社長として業務にあたっている。会社経営にも携わりつつ、出版される全著作物に目を通し、最終的なチェックを行う役割も担っている。